「思うように人材確保ができない」「人材育成ができず定着率が悪い」などの悩みを抱えている人事担当者も多いのではないでしょうか。このような採用にかかわる課題は、人事戦略に原因がある場合がほとんどです。

本記事では、人事戦略の定義や、おすすめのフレームワークについて解説します。最後まで読むことで人事戦略の立て方のコツが分かります。他社の事例も紹介しますので、自社の人事戦略策定の参考にして下さい。

英語表記あり|人事戦略とは

人事戦略は組織が人的資源を最大限に活用し、ビジネス目標を達成するために採用や育成、評価、報酬などの改善をおこない、組織の生産性を高めるための戦略のことです。英語では「Human Resources Strategy」と表記されます。

「思うように人材確保ができない」「従業員の成長が遅い」などが原因で、想定した結果が得られないといった経営課題がある場合、人事戦略によって解決します。例えば、企業説明会に参加して応募者を集めたり、採用後に配置転換したりすることも人事戦略のひとつです。 

   

人事戦略と似た用語の違い

人事戦略には、似たような用語があるため混同しがちです。これらの用語は密接に関連していますが、微妙な違いがあります。
総合的な人的資源の計画や方針を指すものや、一部や特定の業務に焦点を当てたものがあるため注意が必要です。

以下に、間違いやすい用語とそれぞれの違いについて解説しますので、確認しておきましょう。

戦略人事との違い

戦略人事とは「戦略的人的資源管理」の略で、企業の経営目標や経営戦略を達成するための人材マネジメントです。英語では「Strategic Human Resources Management」と表記されます。戦略人事の特徴は、企業のビジョンや戦略に合わせて「人材資源」を活用することです。

例えば、事業拡大にあたって、新たな部署を立ち上げるなどが戦略人事に該当します。

人材戦略との違い

人材戦略とは「優れた人材を確保・育成し、企業が経営目標を達成するための人材面の戦略全般」を指します。例えば、採用や研修、昇進、報酬など従業員の能力とモチベーションを最大限に引き出すなどです。

また、市場動向や技術進化に応じて個人がスキルアップするための施策や、適切な人員配置によって競争力を高めることも人材戦略となります。人材戦略と人事戦略は同じ意味で使われることが多く、英語表記はどちらも「The Human Resource strategy」です。

経営戦略との違い

経営戦略とは「企業が達成したいビジョンや達成するための計画や方針」を指します。具体的には、外部環境や競合他社の動向、市場ニーズ分析などで、自社の経営能力を最大限に活用する方法を考えることです。英語では「Business Strategy」と表記されます。

経営戦略と人事戦略は同じビジョンに基づいて策定され、人事戦略は経営戦略を実現するための「人材資源」に特化した戦略です。

組織戦略との違い

組織戦略とは「企業が目標を達成するための計画や方針」のことです。企業全体が対象となります。英語表記は「Organizational Strategy」です。企業としての方向性が、組織戦略によって明確になれば「人材資源」をどのように活用するのかが決まります。つまり、組織戦略によって人事戦略も変わるのです。

事業戦略との違い

事業戦略は「企業が目的を達成するための基本的な骨組みを策定し、自社の経営資源をどのように有効に活用するかの基本方針」を決めることを指します。例えば、市場における位置づけや競合他社との差別化、成長戦略など企業の事業活動全般に関わる方針です。英語では「Business Strategy」と表記します。

採用戦略との違い

採用戦略は「優れた人材を確保し、企業の経営目標に対する人的資源を計画的に獲得するための計画や方針」を指します。英語表記は「Recruitment Strategy」です。母集団の形成や選考、採用フローの策定など、採用活動に特化した戦略となります。

重要な経営資源となる人材を確保するための重要な戦略で、企業の経営戦略と密接にかかわっています。

   

人事戦略を立てるメリットと目的とは?

人事戦略を立てる目的は、企業が人的資源を計画的に活用し、目標達成のために具体的な方針や計画を策定することです。具体的には企業のビジョンを共有し、人的資源を効果的に活用して目標達成を支援します。

また、コンプライアンスの遵守や、従業員のモチベーションが高まる環境をつくることも重要です。そのためには課題の洗い出しが必要となります。課題に対して改善していくことで、企業は成長するのです。この成長こそが人事戦略のメリットとなります。

   

人事戦略の策定におすすめのフレームワーク

人事戦略の策定にはフレームワークによって現状分析し、対策を考えることが最も有効です。まずは自社の現状を把握しましょう。
以下に人事戦略に使える代表的な3つのフレームワークを紹介します。自社の課題解決の参考にして下さい。

SWOT分析

SWOT分析は、マーケティングで使われるフレームワークのひとつです。
まず、現在の状況を「内部環境」と「外部環境」に分け、さらにそれぞれをプラス要因とマイナス要因に分けて整理して考えます。

以下の4つの要素を整理して客観的に把握する手法です。

プラス要因マイナス要因
内部環境組織の強み(Strengths)組織の弱み(Weaknesses)
外部環境機会(Opportunities)脅威(Threats)

SWOT分析はそれぞれの要素を単独で分析するため、現状把握に役立ちます。

TOWS分析

TOWS分析は「クロスSWOT分析」とも呼ばれ、SWOT分析の発展形です。SWOT分析で整理した外部環境と内部環境の「強み・弱み」を掛け合わせて戦略を考えます。

外部環境組織の強み組織の弱み
機会機会 × 強み機会 × 弱み
脅威脅威 × 強み脅威 × 弱み

TOWS分析では4つの要素を掛け合わせることで、具体的にどのような行動を起こせば良いかが分かります。事前にSWOT分析で内的・外的要因を抽出しているため、戦略策定の話し合いがスムーズです。

ロジックツリー分析

ロジックツリー分析は、ひとつの課題や目標に対して論理的に分解し、達成に向けての手段やステップを整理していく手法です。例えば、5年後に社員を500人にするために、今年は50人の採用を行う、一方で離職率を1%台にする必要があるなどです。

つまり、ひとつの目標に対して達成しなければならないサブ目標を洗い出し「どう行動したら良いか」を理論的に結びつけていきます。ロジックツリー分析は、目標と具体的な活動を結びつけ、各要素の関連性や影響を視覚的に理解しやすくするのがメリットです。

     

手順|人事戦略の立て方

人材戦略を立てるには、次に挙げる4つのステップごとに考える必要があります。考え方を解説します。順番に見ていきましょう。

会社の現状・制度などをふまえて課題を把握する

まずは「現状把握」が必要です。フレームワークを利用して課題を明確にしましょう。課題の洗い出しにあたっては、次の事項にも注意しておく必要があります。

  • 経営戦略
  • 経営目標(短期・中長期)
  • 企業のミッション
  • 現場の人員体制
  • 採用環境やトレンド

例えば「人員不足が続いている」という課題を解決するためには、「自社の募集状況はどうなっているか」「どの層が不足しているのか」を踏まえ、募集の成果が悪ければ外部に委託する方法もあるでしょう。つまり、会社が目指している姿と現状のギャップを把握し、現場の課題を洗い出すのです。

各課題に対する施策を立てる

自社の現状や課題の把握ができたら、次は具体的な施策の立案です。現状とのギャップを埋めるために採用活動の見直しや、人員配置、人材教育などの計画を立てます。研修プログラムの開発や、従業員評価制度の見直しなども考えられるでしょう。

計画を立てることで、どこに向かうかの「方向性」と誰が何を担当するのかの「責任」が明確になります。計画は具体的な作業やプロジェクトに分解し、「いつまでに何をやるか」をスケジュール化すると良いでしょう。また、計画は関係者と共有することも重要です。ただし、現状とかけ離れた施策は担当者のモチベーションが下がる可能性があるので、現状に即した施策を立てましょう。

各施策の実行計画を立てる

施策を立案したら、実行するための計画が重要です。実際に実行できなければ組織全体を円滑に機能させることが難しくなります。
企業のビジョンやゴールを達成するために必要な人材を確保・育成し、組織にとって価値を提供しなければなりません。
実行計画は具体的で実現可能なステップを考え、段階的に進めることが重要です。具体的には以下を踏まえて考えると良いでしょう。

  • 目的や目標は何か
  • 誰に担当させるか
  • いつまでに何をやるか

進捗・結果を確認する

課題に対する施策を立てたら、途中で進捗を確認しながら実行します。進行状況が把握できれば、必要に応じて調整が可能です。また、予算や関わる人員が適正かどうかも判断できます。具体的には、関係者や関連部門との定期的なミーティングを実施し、進捗状況や結果について報告すると良いでしょう。

期待通りの結果が出ていない場合は、原因を徹底的に分析します。そもそもの計画が間違っていることや、必要な人員を投入できていない、あるいは外部環境の変化などが原因となっている可能性があります。途中で進捗や結果を確認することで、柔軟性を持った対応が可能になり計画の成功につながります。

   

うまく人事戦略を立てるコツ

「人事戦略の策定は難しい」というイメージをお持ちの人もいるでしょう。しかし、コツをつかめばうまく立てられます。以下に5つのポイントを紹介しますので、自社の人事戦略を立てる際の参考にして下さい。

人事戦略の目標を経営戦略と連動させる

人事戦略を立てる際には、人事戦略の目標を経営戦略に連動させることが重要です。経営戦略と人事戦略が一体となっていることで、組織全体が一貫性を持ち効果的に目標の達成に必要な対応を進められます。

経営戦略との連動には以下のような効果があります。

  • ビジョンと方向性の一致
  • 優先順位の共有
  • 重要な戦略の共有
  • 目標達成に必要なスキルや人材確保

このように、経営戦略と人事戦略を連動させることにより、より戦略的かつ効果的に目標に向けて一貫した行動を促進できます。結果的に、組織全体のパフォーマンス向上につながるのです。

有利に企業運営するためのロードマップをつくる

より良い企業運営をするため「人事として何ができるのか」を把握するには、ロードマップの作成がおすすめです。以下がつくり方の基本的なステップとなります。

  • 企業理念を明確にする
  • 求める人物像の明確化
  • 採用計画や育成計画を策定する
  • 仕組みの構築
  • 計画の実行
  • 計画の評価

ロードマップを作成することで、組織に一体感が生まれ、各部門の役割が明確になるため、より早い目標達成が可能です。

HRBPや1on1を導入する

HRBPとは「Human Resource Business Partner」の頭文字をとった言葉です。人事面と経営面の両面で事業計画をサポートするポジションのことを指します。このような専門的な人材を配置し、1on1(上司と部下が1対1で行う、定期的な面談)で対話を繰り返すと効果的です。

HRBPの導入で経営面を理解した人事戦略の策定ができ、1on1の導入は上司と従業員との信頼関係を構築します。結果的にコミュニケーションの質や信頼関係が向上し、会社と従業員のどちらにもプラスになるのです。

本・セミナー・研修でノウハウを学ぶ

本やセミナーなどから人事戦略立案のノウハウを学ぶのもおすすめです。専門的な本やセミナーでは、人事戦略に関する理論的な知識や実践的な手法を学べます。専門家や成功事例を学ぶことで、より深い理解が得られるでしょう。

また、セミナーや研修では、同じ分野に興味を持つ専門家との交流機会があります。異なる組織の人との交流を通じて、新しいアイデアや視点を得るチャンスです。

本やセミナーはネットからでも探せます。ただし、内容をよく吟味して自社の目標にあったものを選ぶようにしましょう。

日立・Amazonなどの成功事例を参考にする

実際の成功例を真似するのもひとつの方法です。例えば、日立では2009年の経営危機を踏まえて、従来の「国内中心型のものづくり」から「グローバル型の社会イノベーション事業の拡大」へと経営戦略を変更しました。これにより、人事戦略も「日本人男性中心で同じ時間と場所を共有した働き方」から「国籍や性別を問わず、時間や場所にとらわれない働き方」に変更しています。

また、AmazonはOLP(Our Leadership Principles)と呼ばれる企業理念を策定しています。OLPに沿った人材採用や人事評価を行い、経営戦略を実行する仕組みです。例えば、どんなに優秀でもOLPにそぐわない人は採用されず、どんなに実績を出したとしても、OLPに反していれば評価されません。これを世界共通にしています。

   

まとめ

経営戦略は組織の長期的な目標や方針を定め、これに基づいて人事戦略が策定されます。組織の人的資源を最大限に活用して、経営戦略をサポートすることが人事戦略の役割と言えるでしょう。

人材戦略はフレームワークを使用することで、戦略の明確な構造や指針が整理され、実行可能性が高まります。「SWOT分析」や「TOWS分析」で経営目標達成に必要な人材を確保しましょう。

一方で、確保した人材を定着させることも重要です。kimeteでは、社員の定着率が上がらないという悩みをお持ちの企業に向けたホワイトペーパーを提供しています。

ぜひ、ダウンロードして自社の人事戦略の参考にして下さい。