若者の雇用を確保し、安心して働ける環境を実現するために施行された「若者雇用促進法」。一定の条件をクリアしている企業は認定を受け、多くのメリットを享受できることから、採用や経営戦略のひとつとして活用している企業も少なくありません。

「若者雇用促進法」という名前は聞いたことがあるものの、具体的な内容まではよくわからないという担当者も多いのではないでしょうか。

本記事では、若者雇用促進法の概要や企業が順守すべきポイントや罰則などを網羅的に解説します。採用成功や企業成長の鍵を握るユースエール認定制度についてもまとめているので、ぜひ参考にしてください。

若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)とは 

若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)とは、若者の適切な職業選択や職業能力の向上を支援するために制定され、平成27年10月1日(一部規定は平成28年3月1日または平成28年4月1日から)に施行された法律です。

若年労働力の減少が進む中で、若者の雇用を確保し、社会全体の労働力不足に対応することを主な目的としています。

企業には若者の雇用に積極的に取り組むことや、職業訓練や雇用管理の充実・向上が求められているとともに、労働条件の明示や職場情報の提供などの義務が課されています。

若者雇用促進法が導入された背景

若者雇用促進法が導入された背景には、歯止めがかからない少子高齢化と、それにともなう労働人口の減少が深く関係しています。

具体的には、2007年には2,035万人いたとされる15歳から34歳までの若年労働力人口が、2023年には1,742万人にまで減少しています。このような状況の中で、若者の雇用を安定させ、労働力人口の減少を抑制することが急務となりました。

若者の就業機会を確保するためには、適切な職業選択を支援し、職業能力を向上させる施策を講じる必要があります。加えて、若年層の就労後の定着率を高めるためには、企業側の協力や取り組みも不可欠です。

このような背景から、若者の就職活動や企業側の雇用支援を強化することを目的として、若者雇用促進法が施行されました。

若者雇用促進法の企業側のメリット

若者雇用促進法は、「優秀な人材を獲得しやすくなる」「融資や助成金で優遇される」など、企業にとってもメリットがあります。

優秀な人材を獲得しやすくなる

若者雇用促進法に基づいてユースエール認定を受けた企業は、若者と積極的に接点を持てるようになります。

ユースエール認定制度とは、若者にとって魅力的な職場環境を提供している企業を認定する制度です。認定を受けた企業は就職活動中の若者から注目されやすくなり、結果的に優れたスキルや意欲を持つ若者が集まりやすくなります。

さらに、認定を受けることで社会的信用も高まるため、企業のブランド力向上や、採用活動がより円滑に進む効果も期待できます。

融資や助成金で優遇される

ユースエール認定企業になると、融資や助成金でも優遇されます。

例えば、日本政策金融公庫からの低利融資や、各種助成金で設定されている優遇措置などが挙げられます。これらの支援を受けることで資金調達や経営基盤の強化につながります。

融資や助成金を受ける条件はそれぞれ異なるため、資料や公式サイトで確認しましょう。

事業者が若者雇用促進法で特に順守すべき6つのポイント

若者雇用促進法において、事業者が特に順守すべきポイントは以下の6つです。

  1. 募集にあたって労働条件を明示する
  2. 固定残業代は労働時間と金額の計算方法などを明示する
  3. 「青少年雇用情報」の情報提供が必要
  4. 内定取り消しは無効になることがある
  5. 卒業後3年以内の学生は新卒枠で応募できるように努める
  6. 青少年へのハラスメントを防止する

①募集にあたって労働条件を明示する

若者雇用促進法では、青少年を対象とした募集において、労働条件を明確に提示することが求められています。

若者雇用に限ったことではありませんが、広告や求人情報において誤解を招くような表現や誇大広告、虚偽の情報を掲載するのは厳禁です。労働条件が不明確であったり、誤った情報が掲載されていた場合、求職者にとって大きな不利益をもたらす可能性があるためです。

求人情報を掲載する際は、労働時間・給与・業務内容などを可能な限り明確に記載するなど、誤解を招かないよう誠実な対応を心がける必要があります。

②固定残業代は労働時間と金額の計算方法などを明示する

労働条件の表記において、固定残業代制度を導入している場合は特に注意が必要です。

固定残業代に関する情報は労働者にとって非常に重要な要素のため、その計算方法や労働時間数、金額などを明確に示すことが求められます。具体的には以下の3点が挙げられます。

  • 固定残業代の金額
  • その金額に充当する労働時間数
  • 固定残業代を超える労働を行った場合の追加支給について

この3点が明記されていれば応募者は労働条件を正確に理解できるため、後々のトラブル防止にもつながります。さらに、固定残業代に関連する不透明な運用が行われた場合、法的な問題に発展する可能性もあるため、労働条件の記載には十分注意を払いましょう。

③「青少年雇用情報」の情報提供が必要

若者雇用促進法では、応募者に職場の実態を正確に伝えるために、事業主は「青少年雇用情報」を提供することが義務付けられています。

企業に求められる具体的な義務は以下の通りです。

  1. 幅広い情報提供の努力義務
  2. 応募者からの求めに応じて、以下3つの類型の中から1つ以上の情報提供を行う

(ア) 募集・採用に関する状況
(イ) 職業能力の開発・向上に関する状況
(ウ) 企業における雇用管理に関する状況

提供する情報の具体例として、平均勤続年数・研修の有無・業務内容などが挙げられます。このような仕組みがあることで、応募者は企業の実態を事前に正しく理解し、自分に合った職場を選択できるようになります。

また、企業側も透明性のある情報提供を行うことで信頼性が高まり、採用決定率の向上や早期退職の軽減などの効果が期待できるでしょう。

④内定取り消しは無効になることがある

企業側からの内定取り消しは無効になる可能性がある点にも注意が必要です。

若者雇用促進法では、労働契約が成立したとみなされる場合、合理的な理由がない内定取り消しは無効とされることがあります。特に、社会通念上相当でないと認められる場合には、企業側が責任を問われることにもなりかねません。

やむを得ない理由・事情で内定取り消しを行わなければならないケースもありますが、その場合は自社に代わる就職先を確保するために最大限の協力・努力をする必要があります。

余程のことがない限り、内定取り消しは慎重に判断すべきであることに加え、内定を取り消した求職者が不利益を被らないよう、企業として誠実かつ適切な対応が求められます。

⑤卒業後3年以内の学生は新卒枠で応募できるように努める

若者雇用促進法では、卒業後3年以内の求職者は新卒枠で応募できるようにすること、応募条件にはできる限り上限年齢を設けないことが推奨されています。こうすることで、卒業後すぐに就職できなかった若者にも正社員として就職するチャンスが提供されるためです。

また、通年採用や秋採用の導入を検討するなど、採用活動に柔軟性を持たせることでも、多様な人材を受け入れる間口が広がります。ただし、企業側のさまざまな事情に配慮して、これらはあくまで努力義務となっており、最終的な判断は企業側に委ねられています。

⑥青少年へのハラスメントを防止する

若者雇用促進法では、青少年へのハラスメント防止も義務付けられています。これは就職後の職場環境のみならず、面接などの選考段階も含まれます。

若者雇用促進法に基づき、企業はあらゆる場面で青少年へのハラスメントが発生しないよう対策を講じることが求められています。

具体的には、万が一ハラスメントが発生した場合に迅速かつ適切に対応する仕組みやルール作り、ハラスメント防止に関する研修の実施、専用相談窓口の設置などが挙げられます。

実際は青少年に限定したものではなく、従業員全員が日頃から安心して働ける環境を整えることが大切です。このような取り組みは、内外からの企業に対する信頼感やエンゲージメントを高めることにもつながります。

若者雇用促進法の罰則は?

若者雇用促進法を順守しない事業所には、罰則が課される場合があることも知っておく必要があります。

一例として、ハローワークでは平成28年3月1日以降、労働関係法令に違反した事業所に対しては、新卒者や若者にその事業所を紹介しない措置が取られています。

若者や新卒を採用する手段はハローワークだけではないものの、貴重な採用機会をひとつ失うことで採用活動が不利になるのは事実です。また、違反の内容によっては、企業としての信頼性やイメージが低下し、若者から選ばれにくくなるなどの影響を及ぼす可能性があります。

ユースエール認定制度とは?

ユースエール認定制度とは、若者の採用と育成に積極的に取り組み、かつ雇用管理の体制が優良な中小企業を厚生労働大臣が認定する制度です。認定を受けるためには、適切な労働条件の提供や研修制度の整備などの条件を満たしたうえで、各都道府県労働局へ申請する必要があります。

ユースエール認定を受けた企業は、商品や広告にユースエール認定マークを使用できるようになり、自社の信頼性や社会的評価を向上させる効果が期待できます。

また、若者に対して厚生労働大臣から認定を受けているという信頼感や、安心して働ける環境が整った魅力的な企業であることをアピールできることに加え、さまざまな優遇措置を受けられるようになります。

ユースエール認定企業になるメリット

ユースエール認定企業になる主なメリットは以下の5つです。

  1. ハローワークなどで重点的にPRしてもらえる
  2. 認定企業限定の就職面接会などへ参加できる
  3. 商品や広告などに認定マークを使用できる
  4. 日本政策金融公庫による低利融資を受けられる
  5. 公共調達で有利になる

ハローワークなどで重点的にPRしてもらえる

ユースエール認定企業は、ハローワークなどで重点的にPRされるようになります。

若者向けの就職イベントやセミナーでPRされることにより、企業の認知度が向上し、若者からの注目度が高まることで、採用活動における競争率が高まります。

さらに、選考参加者の増加や優秀な人材からの応募の増加、採用決定率の向上など、その恩恵は多岐にわたります。

認定企業限定の就職面接会などへ参加できる

ユースエール認定企業は、ハローワークなどが主催する就職面接会などに優先的に案内されます。

これにより、企業は若者との接点が増え、より多くの若者と効率的に出会う機会が提供されます。また、認定企業同士の交流や親睦が深まることで、企業間のネットワークを拡大できるメリットもあります。

商品や広告などに認定マークを使用できる

ユースエール認定企業は、商品や広告に認定マークを使用できるようになります。

このマークは、透明性のある情報提供や環境整備を行っていること、その水準が高く優良であることを示す証となり、消費者や求職者に対して企業の信頼性やブランドイメージの向上が期待できます。採用シーンのみならず、売上の拡大に寄与する可能性もあります。

日本政策金融公庫による低利融資を受けられる

ユースエール認定企業は、日本政策金融公庫からの低利融資を受けられるのも特徴です。

この低利融資は、働き方改革推進支援助成金の一環として提供されており、認定企業に対しては特例として基準利率が引き下げられます。

これにより、認定企業であることが資金調達のしやすさに直結するため、経営基盤の強化や新たな事業投資など、さらなる発展のきっかけにもなり得ます。

なお、助成金の受給条件が優遇されることも認定企業の大きなメリットです。

公共調達で有利になる

ユースエール認定企業は、公共調達で有利になる点もメリットです。政府や自治体が実施する公共調達において加点評価を受けられるためです。

これにより、公共事業の入札において有利に立ち回ることができるため、受注の可能性が高まります。特に、自治体による地域振興や社会貢献活動を評価する入札では、この認定が大きなアドバンテージとなります。

企業にとって公共調達での成功は、事業の安定性や拡大に直結するため、認定を受けることが重要な戦略のひとつにもなり得るでしょう。

ユースエール認定企業になる条件

ユースエール認定企業になるためには、若者の採用と育成に積極的に取り組んでいることを示すため、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 新卒採用を行い、若者の雇用機会を広げていること
  2. 正社員の直近3年間の離職率が20%以下であること
  3. 有給休暇・育児休暇の取得率・日数が規定以上であること
  4. 人材育成・教育訓練の方針・計画を策定していること
  5. 研修制度や育成体制を充実させ、若者のスキルアップを支援していること
  6. 労働条件が適正であり、法令を順守していること
  7. 規定の雇用条件が公表されていること
  8. 過去3年間、新卒採用において内定取り消しをしていないこと
  9. 過去1年間に事業主都合による解雇または退職勧奨を行っていないこと

このほか、法令違反を行っていないことや、公序良俗に反する事業者でないことなどが条件となっています。

まとめ

若者の就労環境を守りつつ、企業にとっても多くのメリットがある若者雇用促進法。順守すべきポイントはあるものの、ユースエール認定企業になることで得られるメリットは非常に大きいといえます。

認定条件は決して容易ではなく、違反に対する罰則も設けられているため、法令を正しく理解し、適切に対応することが重要です。一方で、その厳格な制度運用が認定企業の社会的地位の向上を実現しているという側面もあるため、新卒採用の戦略のひとつとしても非常に有効です。

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