就職にまつわるニュースなどで売り手市場という言葉を耳にしますが、明確に意味を理解していないという採用担当者の方もいるのではないでしょうか。売り手市場とは、求職者よりも人材を採用したい企業のほうが多いことです。
この記事では、売り手市場が採用にどう影響するのか、売り手市場の中で採用を成功させるコツなどを解説していきます。記事を読むことで売り手市場の採用方法がわかるので、最後まで読んで自社の採用に役立ててください。
求人採用における売り手市場とは
「売り手市場」や「買い手市場」がどのような意味か、正しく理解ができていなければ状況に応じた採用がしにくくなります。近年は売り手市場だと言われている理由も含めて、まずは両者の違いを認識しておきましょう。
それぞれの違いについて詳しく解説します。
売り手市場の意味とは
市場の受給バランスにおいて、需要が供給を上回っている状況を売り手市場と言います。
つまり、売りたい人よりも買いたい人のほうが多い状況のことです。採用市場において売り手は求職者や学生を指し、買い手は企業を指します。
売り手市場は求職者(売り手)よりも求人数(買い手)が多い状況です。求職者はより好条件の企業を選べるため求職者に有利となります。
一方で企業側にとっては人材の奪い合いになるため、業界の人気度や条件次第で応募が集まりにくくなる特徴があり、景気に左右されやすいのが特徴です。
買い手市場とは(売り手市場との違い)
買い手市場とは求職者(売り手)に対して求人の数(買い手)が少ない状況のことを指します。企業側にとっては、求人に対し多くの求職者が集まりやすくなるため、自社が求める人材によりマッチした求職者を吟味して採用しやすくなる点がメリットです。
そのため、企業側にとっては優秀な人材を確保できるチャンスとなります。一方で、求職者にとっては採用枠が少なくなるため、就活がむずかしくなるのが特徴です。
このように、買い手市場と売り手市場では、企業にとって多くの人材の中から選べるか、人材の取り合いになるかの違いがあります。
なぜ近年の市況が売り手市場と言われるのか
近年は売り手市場と言われています。その理由のひとつは就職率の上昇です。厚生労働省による「令和4年度大学等卒業者の就職状況調査」では、大学生の就職率は97.3%で前年を1.5%上回っています。
もうひとつは求人数の増加です。リクルートワークス研究所の「ワークス大卒求人倍率調査(2024年卒)」によると、有効求人倍率も1.58倍から1.71倍と上昇しました。
全国の民間企業の求人総数は77.3万人で、前年の70.7万人から6.6万人増加していることからも、採用に積極的な企業は増加傾向であることがわかります。
例あり|売り手市場・買い手市場を判断するコツとは
売り手市場か買い手市場かを判断するには「有効求人倍率」を確認する方法があります。
有効求人倍率とは「求人数」を「求職者数」で割った数値です。具体的には、有効求人倍率が「1」以上であれば、ひとりの求職者に対して1件以上の求人がある、ということを示しています。
「独立行政法人労働政策研究・研修機構」が発表したデータによると、2023年7月の平均有効求人倍率は1.29倍で、ひとり当たり1.29件の求人があると言えます。有効求人倍率は都道府県ごとに毎月発表されており、景気と比例して変動するのが特徴です。
実際の例を見てみると、リーマンショックが起こった2008年や、新型コロナが流行した2020年は大きく落ち込んでいるのがわかります。(参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構)
なお、有効求人倍率はハローワークの求人数をもとにしているため、新卒は含まれていないので注意が必要です。
本当に売り手市場?求人採用業界の現状とは
近年は売り手市場だと言われていますが、本当にそうなのかと気になる人もいるでしょう。
ここで、採用業界の現状を新卒・地域・職種に分けて、それぞれ詳しく解説します。
採用業界全体
結果から言うと、近年の採用に関しては売り手市場です。2008年のリーマンショックの影響で景気が悪化し、翌年の2009年には有効求人倍率が0.48倍まで落ち込みました。しかし、その後は年々右肩上がりに回復し、2014年以降に「1.00」を超え2018年には1.61倍と過去最高の高倍率でした。
2020年にコロナ禍に突入し、採用を停止した企業も多く倍率は下がりましたが、1.18倍とリーマンショックの時ほど落ち込んでいません。コロナ禍以降も1.00倍以上をキープしながら回復し、2023年4月は1.32倍となっています。
(参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構)
今後も少子高齢化による労働人口の減少で売り手市場が続くと予想されるため、企業側にとっては不利な状況が続く可能性が高いでしょう。
新卒採用(企業規模別)
新卒の採用にあたって、採用市場全体が売り手市場であっても、大企業と中小企業では状況が異なります。以下に企業規模別の状況を解説するので、現状を把握した上で自社の採用活動対策を講じる際の参考にしてください。
従業員数300人以上
従業員が300人以上1,000人未満の企業においては、2024年卒の求人倍率は1.14倍となっており、前年より0.02%上昇しました。2010年卒の1.51倍の翌年に1.00倍に落ち込み、その後は緩やかではありますが、倍率は右肩上がりです。
また、5,000人以上の大企業における2024年3月卒の求人倍率は0.41倍で前年から0.04%の増加に留まっており、2010年以降、1.00倍未満が続いている状況となっています。
つまり、全体として売り手市場ではあるものの、大企業にとっては買い手市場だと言えるでしょう。
(参照:リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査2024卒」)
従業員数299人以下
従業員が299人以下の中小企業における2024年の求人倍率は、前年より0.88%増の6.19倍となっています。5,000人以上の大企業と300人以下の中小企業では5.78%の倍率差が生じているのが特徴です。
つまり、大手企業には多くの学生が応募する一方で、中小企業は学生が集まりにくくなっている状況となっています。
このような大企業との倍率格差はコロナ禍以前から続いており、今後も中小企業にとっては採用が厳しくなることが予想されます。
(参照:リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査2024卒」)
地域別の状況
地域別に有効求人倍率を見てみると、次のようになっています。
2022年7月と2023年7月の比較です。
都道府県 | 2022年7月 | 2023年7月 | 増加率 |
全国 | 1.28 | 1.29 | +0.01% |
北海道 | 1.14 | 1.02 | −0.12% |
東京都 | 1.52 | 1.79 | +0.27% |
神奈川県 | 0.89 | 0.92 | +0.03% |
大阪府 | 1.25 | 1.30 | +0.05% |
福岡県 | 1.18 | 1.20 | +0.02% |
全体的に見ると前年より倍率は増加傾向ですが、北海道など有効求人倍率が減少している地域もあります。全国で最も倍率が高いのは東京都で、最も低いのは神奈川県です。
職種別の状況
職種によってどのような有効求人倍率の違いがあるのかを解説します。厚生労働省の「一般職業紹介状況」をもとに「専門的・技術的職業」「事務的職業」「販売の職業」「サービスの職業」を参考に見ていきましょう。
職種 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
専門的・技術的職業 | 1.74 | 1.84 | 1.91 |
事務的職業 | 0.39 | 0.45 | 0.51 |
販売の職業 | 1.50 | 1.66 | 1.98 |
サービスの職業 | 2.32 | 2.62 | 2.98 |
参考:厚生労働省「一般職業紹介状況」令和3年3月・令和4年3月・令和5年3月
どの職種においても増加していますが、サービスの職種が高くなっています。サービスの職種の中でも一番高いのは介護サービスとなっており、少子高齢化の流れを反映しているのが特徴的です。
売り手市場のデメリットとは
採用活動では「母集団形成」が重要です。母集団形成とは「自社の求人に応募してくれる応募者の集まりを作る」という意味です。
売り手市場では学生のほうが企業を選べる立場にあるため、母集団形成しにくくなるのが特徴と言えます。母集団の中から選考するため、応募者が集まらなければ採用が難しくなるのです。
企業が存続していくためには計画的に人材を採用する必要があり、自社にマッチした人材の採用には母集団形成が不可欠となります。採用ができなければ、将来的に必要なポジションの不足や人手不足による従業員への負担増などで組織力や競争力が低下するなど悪影響を及ぼしかねません。
売り手市場のメリットとは
売り手市場は求職者にとってメリットが多く、企業にとってはデメリットしかないように思えますが、そうではありません。上手に採用活動すれば、企業にとってメリットとなります。
以下に、企業側の売り手市場のメリットを見ていきましょう。
求める人材を効率良く採用できる
売り手市場ではひとり当たりの求人数が増えるため、学生はより良い条件の求人を選ぼうとします。売り手市場になるほど大企業に応募者が集まりやすい傾向があるため、大企業にとっては母集団形成がしやすくなるのがメリットです。そのため、適性検査の実施などで、より自社にマッチした人材を採用することが大切です。
大企業に応募者が集中する分競争率は激しくなるため、中小企業も他の企業より魅力的な条件であれば採用に結びつく可能性が高くなり、内定辞退者も少なくなるでしょう。中小企業にとっては、自社の強みや魅力をアピールすれば興味を持ってくれる学生が増え、良い人材に出会えるチャンスでもあります。
選考の負担が減る
売り手市場では応募者が集まりにくいデメリットがある一方で、書類選考や面接にあてる時間が少なくなることや、各応募者をじっくり検討できるメリットがあります。応募の適性が見極めやすくなるため、入社後のミスマッチが起こりにくくなるでしょう。
応募者が多すぎるとそれぞれのESを読み込む時間もなく、優秀な人材を見過ごしがちですが、時間をかけることで優秀な人材の見極めができます。そのため、売り手市場は良い人材を採用できるチャンスだと捉えましょう。
売り手市場時の新卒・転職採用を成功させるコツとは
売り手市場でも状況を逆手に取り、うまく採用活動を行うことで優秀な人材確保が可能です。そのためには、しっかりとした採用戦略や採用計画を立てることが重要となります。
最後に売り手市場でも採用活動を成功させるコツを紹介するので、自社の採用の参考にしてください。
採用戦略を立てる
採用戦略とは場当たり的な採用ではなく、中長期の事業計画にもとづいて計画的に採用活動を行うことです。具体的には、5年後に営業エリアの拡大予定であるため、どのようなポジションの人材が何名必要になるかの計画などがあります。
そのためには、新卒を育てるのか中途採用の即戦力を採用するのかなどを細かく決めていくことが大切です。このように、採用は経営戦略と密接な関わりがあるため、採用したい人物像の明確化と採用計画が重要となります。まずは、採用戦略を立てましょう。
採用計画を作る
採用戦略が決まったら、次に採用計画を立てましょう。
採用計画は事業計画に基づいた採用活動のスケジューリングのことです。具体的には次の項目を決めていきます。
- どの部門で人材が必要か
- どのようなスキルを持った人材が必要か
- 何人必要なのか
- どのような手法で採用するのか
- いつまでに採用しなければならないのか
採用計画を立て採用の目的を明確にし、スケジュール化することが組織に適切な人材を効率よく採用するポイントとなります。現場や経営者など、採用に関わる関係者全員で情報を共有することも重要です。
採用フローに採用計画を落とし込む
採用戦略をもとに採用計画を立てたら、最終的に採用フローに採用計画を落とし込みます。
募集開始から採用完了までの一連のスケジュールが「採用フロー」です。採用フローの作成は、内定を出す日から逆算してスケジューリングするとよいでしょう。
選考フローは大きく次の3つの工程にわけられます。
- 募集
- 選考
- フォロー
上記の工程をいつ頃にするかを具体的に落とし込んでいく作業です。特に、募集の工程においては他社の動向も調査しながら、エントリー開始日や会社説明会の開催日を決定する必要があります。
他社の状況はホームページなどでも確認可能なので、こまめにチェックしておきましょう。
まとめ
近年は売り手市場の傾向で、今後も続くと予測されています。一般的に売り手市場は求職者にとって有利とされ、企業にとっては採用しづらくなると言われますが、売り手市場を逆手に取ることでより優秀な人材を確保することが可能です。
そのためには、採用戦略・採用計画・採用フローの作成が重要となります。kimeteでは採用に関するコンサルティングを行っており、採用戦略の作成支援なども相談可能です。
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