採用市場は常に変化しています。企業にとって、最新の市場動向とトレンドを把握することは、戦略的な採用活動を行う上で必要不可欠です。この記事では、新卒採用と中途採用それぞれの市況や推移について、データを基に詳しく解説します。

業界の求人倍率の変動​​や年収推移​​、多様化する価値観など​​、現代の採用担当者が直面するさまざまな課題に役立つ情報が満載です。自社の採用活動を戦略的に実施し、変化する市場環境の中で成功を収める手法を紹介します。

採用市場の動向・市況

採用市場は、コロナ禍からの経済回復と共に、多くの変化を見せています。ここでは、最新の動向を詳しく見ていくための主なポイントとして、以下の4点について解説します。

  • 売り手市場が継続中
  • 企業の採用意欲が回復傾向に
  • 働き方の多様性の実現
  • 労働者の価値観が多様化

売り手市場が継続中

日本の採用市場は新卒・中途問わず売り手市場の状況が続いており、厚生労働省の調査によると、有効求人倍率は令和5年4月で1.32倍と、高い水準を保っています。これは、労働市場における求職者よりも求人の方が多い状況を指し、特に特定の技術や専門性を持つ分野で顕著です。

正社員における有効求人倍率も1.03倍となり、企業間での優秀な人材獲得のための競争が激しくなっていることを示しています。求職者よりも求人の数が多い市場環境が継続していることから、企業は採用戦略を見直し、魅力的な条件を提示する必要があるでしょう。

企業の採用意欲が回復傾向に

新型コロナウイルスの影響で一時期低下していた企業の採用意欲が、経済の回復と共に2022年度からは再び上昇しています。多くの企業が、事業拡大や退職者の補充のために新たな人材を求めており、今後も加速が予想されるでしょう。

リクルートワークス研究所の調査によると、2024年卒の大卒求人倍率は1.71倍と、前年の1.58倍から上昇し、コロナ禍前の水準に戻っています。特に、採用拡大に慎重だった中小企業でも採用意欲が見られるようになりました。また、中途採用においても、全ての規模の企業で採用数が増える見通しという調査結果が出ています。

働き方の多様性の実現

働き方改革や新型コロナウイルスの影響で働き方の多様化が進み、採用市場にも大きな影響を与えています。テレワークの導入やフレックスタイム制、時短勤務など、企業は従業員のライフスタイルや個々のニーズに合わせた柔軟な勤務体制を構築することが求められています。

特にテレワークに関しては、転職サービスdodaの調査において、約6割の転職希望者が企業のテレワーク実施状況が応募意向に影響するという結果が出ています。テレワークを可とする求人数も増加しており、テレワークの実施が今後の採用市場において重要な要素となることを示しています​​。

労働者の価値観が多様化

労働者の価値観も変化しており、単に収入を得るだけではなく、より多様な働く目的を持つようになっています。仕事を通じて社会に影響を与えたり、自己啓発や能力向上を目指すなど、現代では仕事を通じて自己実現や社会貢献、生活の充実を求めている傾向があります。

こうした価値観の変化は、企業が採用戦略を考える上で重要な要素となっています。企業は、多様化する労働者の価値観に対応するため、よりユニークで魅力的な職場環境やキャリアパスの提供が求められます。労働者の満足度や充実感を高めるためには、経済的な報酬だけでなく、働きがいや成長機会を提供することが不可欠です。

     

データでみる中途採用市場動向

では実際に、データから中途採用の市場動向を見ていきましょう。中途採用市場を理解するには、実態とポイントを押さえることが重要です。ここでは、以下について解説します。

  • 正社員転職率が上昇
  • 最も多い転職理由は「給与の低さ」
  • 転職活動にかかる期間は幅広い
  • 転職活動で求職者が企業に求めるもの

正社員転職率が上昇

近年、正社員の転職率は上昇傾向にあります。これは、労働市場の流動性が高まっていることや企業間での人材獲得競争が激化していること、労働者のキャリア意識の変化によるものと考えられます。

マイナビキャリアリサーチLabの調査によると、2022年の20代~50代の間での正社員転職率は7.6%に上昇し、2016年以降で最も高い数値を記録しています。特にキャリアアップや待遇改善を求める動きが活発で、多様な働き方を模索する人が増えていることが背景に存在しています。企業にとっては人材確保・育成戦略の適切な見直しが迫られる状況といえるでしょう。

最も多い転職理由は「給与の低さ」

価値観の多様化により、収入を得ることだけが働く目的ではなくなった現代ですが、それでもやはり収入面の重要性は見逃せません。マイナビキャリアリサーチLabの調査でも、最も多い転職理由は、「給与の低さ」となっています。

給与の不満や物価上昇への懸念が転職の大きな要因となっており、給与アップを目的にした転職が増えていることが伺えます。同調査では、年収アップを実現した人の割合は39.5%に達しており、2019年以降増加し続けています。この傾向は、今後の転職市場や給与交渉の場において重要な指標となりそうです。

転職活動にかかる期間は幅広い

転職活動に要する期間は、個人によって大きく異なります。平均して3ヶ月から6ヶ月程度ですが、短期間で転職が決まる人もいれば、業界研究や求人探し、円満退職の準備などを含めると、1年以上かかる場合もあります。

このバラつきは、求職者の経験やスキル、業界の状況、求人の選択基準の違いによるものです。また、転職市場の動向や経済状況も、活動期間に影響を与える重要な要因です。中途採用を行う際は、企業側も個々の状況に応じて柔軟な対応が必要とされます。

転職活動で求職者が企業に求めるもの

転職活動で求職者が企業に求めるものは多岐にわたります。株式会社マイナビが実施する2023年度の転職動向調査によると、転職活動での入社の決め手TOP10は以下の通りです。

  1. 給与が良い
  2. 希望の勤務地である
  3. 休日や残業時間が適正範囲で生活にゆとりができる
  4. 福利厚生が整っている
  5. 会社に将来性、安定性がある
  6. 転勤がない(少ない)
  7. 新しいキャリア・スキルを身につけることができる
  8. 現在のキャリアをこれまで以上に伸ばすことができる
  9. 会社の事業内容が魅力的である
  10. 専門性のある仕事に集中できる

やはり給与の良さは最も重視される点ではあるものの、ワーク・ライフ・バランス、福利厚生、キャリアなど、総合的な働きやすさや成長機会を求めていることが分かります。自身が持つ価値観を大切にして働くことが、現在の転職市場で重要視されるポイントです。

    

データでみる新卒採用市場動向

    

次に、新卒採用の市場動向についてもデータを確認していきましょう。新卒採用では、2025年新卒から方針が変わり、変化を迎えます。ここでは、以下について解説します。

  • 2025卒からの経団連の採用方針変更
  • 新卒採用活動の年間スケジュール
  • 新卒採用で中小企業が直面している課題

2025卒からの経団連の採用方針変更

2025年卒の新卒採用市場から、経団連の採用方針が大きく変更されます。これまでのルールでは、インターンシップ経験を採用活動に直接利用することは制限されていましたが、今回の変更により、インターンシップからの直接採用が可能となる見込みです​。

これまでの新卒一括採用の枠組みを超え、学生と企業のより実質的なマッチングを促進することを目的としています。この方針変更は、学生にとっても企業にとっても、より柔軟で効率的な採用プロセスを実現することが期待できるでしょう。

新卒採用活動の年間スケジュール

近年の新卒採用活動の年間スケジュールは、以下の通りに進むのが基本となりつつあります。

  • 6月~8月(大学3年夏):サマーインターンシップ選考開始
  • 9月~11月(大学3年秋):秋季インターンシップ、採用手法の検討・準備
  • 12月~2月(大学3年冬):早期選考実施、就職サイト入稿、合同説明会
  • 3月~5月(大学4年春):企業説明会、選考本格化(面接、グループディスカッション)
  • 6月~9月(大学4年夏):最終面接、選考フォロー、内々定
  • 10月~4月(大学4年秋~翌年春):内定式、内定者フォロー、入社前研修

大学3年生の夏にインターンシップ選考が始まり、秋には合同説明会やセミナーへの参加、冬から春にかけては選考活動が本格化します。夏には最終面接が行われ、秋に内定式が実施されます。

その後、入社準備としてさまざまなイベントやオリエンテーションが行われ、翌年4月に入社となります。一連のスケジュールを理解して、効率的な採用活動を行いましょう。

新卒採用で中小企業が直面している課題

近年の新卒採用市場では、最終的に学生が企業を選ぶ価値基準が多様化してきています。学生は単に給与や福利厚生だけでなく、ワーク・ライフ・バランスや企業文化、キャリアアップの機会など、さまざまな要素を総合的に評価して企業を選ぶ傾向にあります。

そのため、特に中小企業では、一人ひとりの学生に合わせた、よりパーソナライズされた採用アプローチを実施する必要性に迫られているといえるでしょう。限られたリソースの中で効果的な採用戦略を模索する中小企業にとって、大きな課題となっています。

    

年収でみる採用市場の動向・推移

     

年収でみる採用市場の動向は、年収推移と業種別、エリア別に分析することで理解を深めることができます。ここでは、正社員1年目の平均年収の推移と、業種・エリア別の平均年収について解説します。

  • 正社員1年目の年収推移
  • 業種別の正社員1年目の平均年収
  • エリア別の正社員1年目の平均年収

正社員1年目の年収推移

マイナビ転職が実施する2023年12月の調査によると、全国の正社員1年目の平均年収は454.4万円で、前月から3.8万円の減少、前年同月比で1.1万円の減少を見せました。月間推移としては、正社員1年目の年収はわずかながら下降傾向にあることが読み取れますが、年間平均では、4年連続で増加傾向にある状況です。

正社員1年目の年収推移は、経済状況や業界ごとの変動、さらには就職市場の動向が反映されており、新卒市場における企業の給与設定や人材投資の傾向を示唆しています。

業種別の正社員1年目の平均年収

マイナビ転職が実施する2023年12月の調査によると、業種別で見た正社員1年目の平均年収は、「IT・通信・インターネット」が平均519.8万円と最も高い年収を示しています。続いて「金融・保険」で516.1万円、「コンサルティング」が497.7万円です。最も低いのが「流通・小売・フード」で417.0万円と業種による年収の差が明確になっています。

これらのデータから、技術や専門性が高い職種への需要が高まっており、初年度から高い年収が期待できる傾向にあると読み取れます。また、「IT・通信・インターネット」業界では未経験でも平均476.4万円と比較的高い年収を提示しており、専門性が高い職種では将来への期待を込めた年収となっていると考えられるでしょう。

エリア別の正社員1年目の平均年収

マイナビ転職が実施する2023年12月のデータに基づくと、エリア別で見た正社員1年目の平均年収は、「関東」が最も高く470.6万円であることが分かります。特に東京都などの大都市圏における高い給与水準が反映されています。

次に高いのは「東海」地方で442.7万円、「九州・沖縄」が441.0万円と続きます。このデータから、大都市圏や経済活動が活発な地域ほど、初年度から高い年収が期待できる傾向にあると読み取れます。また、地域による経済格差は初年度から大きく、新卒で働く地域の選択も年収に影響することが示されました。

     

求人・応募数レポートでみる採用市場の動向・推移

マイナビキャリアリサーチLabの2023年度の調査によると、求人数と応募数のデータから、採用市場における動向として、特定業種やリモートワーク実施企業の増加が見られます。特に「IT・通信・インターネット」業界での採用活動が活発です。しかし、求人数の増加にもかかわらず応募数が減少しており、これは求職者と企業間のミスマッチや求職者の選択性の高まりを示唆しています。

また、採用手法は多様化しており、従来の求人広告だけではなく、人材紹介やスカウトなど、直接的なアプローチが増えています。単に求人数の増減だけでは測れない、採用市場の複雑化を示しており、企業は今後もより戦略的な採用活動を求められるでしょう。

    

採用市場動向を踏まえて流れに合った採用活動をしよう

採用市場は絶えず変化しており、企業はその流れを理解し、適応する必要があります。売り手市場の継続や採用意欲の回復、働き方や価値観の多様化など、さまざまな要素が採用市場に影響を与えています。最新の動向を踏まえ、より戦略的な採用活動を展開することが企業には不可欠です。

さらに採用活動の質を向上させるためには、kimeteの「採用に関するチェックリスト」が役立ちます。この資料では、採用計画の立案や新卒採用のコツを含む、採用に関するkimeteのノウハウを紹介しています。

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