採用市場や求職者の価値観が変化している昨今、求人情報を掲載して応募を待つ従来の採用手法では必要な人材を確保することが困難になってきました。

このような時代の変化に対応すべく「採用マーケティング」が注目を集め、今や多くの企業で導入されています。

本記事では、採用マーケティングの概要や導入のメリット、具体的な進め方などを解説します。採用マーケティングを理解し取り入れたいと考えている方は是非参考にしてください。

採用マーケティングとは?

採用マーケティングとは、採用活動にマーケティングの考え方やフレームワークなどを取り入れることを指します。

一般的なマーケティングの考え方や戦略は採用活動にも応用でき、採用難の脱却につながると考えられています。

企業認知から定着まで取り組む採用活動のこと

従来の採用活動は、求人サイトなどに募集情報を掲載するところから採用が完了するまでを対象範囲とし、応募者の集め方・選び方にフォーカスするのが一般的です。

一方、採用マーケティングでは自社を認知してもらう段階から採用後に定着・活躍するところまで対象範囲を広げて、段階ごとに切り分けて戦略を立てて取り組みます。

広範囲をカバーすることでマッチング精度が向上し、内定辞退・早期退職の防止なども期待できるでしょう。

採用ブランディング・採用広報との違い

採用ブランディングは採用マーケティングの一環と捉えられ、採用広報とは目的や定義が異なります。

採用ブランディングは自社を戦略的にブランド化し、理想的なブランドイメージを浸透させ自社に抱く価値を向上させることを目的としています。一方、採用広報は採用に関する情報発信を行う活動全般を指すのが一般的です。

採用ブランディングの概要やメリット、具体的な進め方などはこちらの記事を参照ください。

 

採用マーケティングが注目されている理由

採用市場や求職者の価値観の変化にともない、求人広告を掲載して応募者を待つ従来の採用手法では人材の確保が困難になってきています。

このような背景を受けて、採用マーケティングが注目されている2つの理由を解説します。

選ばれるための採用コミュニケーションが必要になったから

現在の採用市場は売り手市場となっており、求職者が企業を選ぶ立場に変化しています。

少子高齢化や労働人口の減少に歯止めがかからず、企業の人材不足が深刻化しており、それにともなう人材獲得競争も一層激しさを増しています。

このような背景から、求人広告を掲載して集まった人から候補者を選ぶという従来の採用手法ではなく、自社の求める人材にこちらからアプローチし、数ある企業から自社を選んでもらえるような採用活動にシフトする必要があるでしょう。

求職者の価値観が多様化しているから

以前の求職者は、その企業の知名度・安定性・年収・福利厚生などの条件面を重視する傾向にありました。しかし最近では、有意義な仕事だと思えるか、企業の目的に共感できるか、カルチャーがマッチするかといった情緒面を重視する傾向に変化しています。

このような求職者のニーズに応えるためには、条件面だけでなく自社の価値観や働く人といった「自社の中身」を公開・発信していく必要があるといえるでしょう。

「待ち」の姿勢の求職者が増えたから

求職者のスタンスが「待ち」の姿勢に変化していることも採用マーケティングが注目されている理由の1つです。

企業が直接求職者にアプローチする「SNS採用」や「ダイレクト・リクルーティングサービス」の普及にともない、自身のレジュメなどを公開して企業からのオファーを待つ求職者が増加しています。

このような背景から、必然的に「待ち」の求職者にどのように自社を認知してもらい、どのようにアプローチしていくかを考える必要が出てきました。

計測可能な指標が増えたから

イベントや合同企業説明会がメインだった頃と比べて、計測可能な指標が増えたことでマーケティングの要素を取り入れやすくなりました。

具体的には、SNSやメディアではページビュー数・クリック率・継続接触率・応募率などが計測可能であり、それぞれ認知・興味・検討段階にどのくらいの人が滞在しているかを可視化できます。

それぞれの数値を分析し改善策を講じる過程は、まさにマーケティングの考え方や取り組み方そのものであるといえるでしょう。

 

採用マーケティングのターゲット

従来の採用手法では転職を希望する求職者のみがターゲットでしたが、採用マーケティングでは既存社員・過去の退職者・過去の応募者・辞退社まで範囲を広げて採用の機会を創出していきます。

求職者(顕在層・潜在層)

採用マーケティングでは、転職を希望し自ら行動を起こす顕在層だけでなく、「良い企業があれば転職しても良い」と考えている潜在層もターゲットに含みます。

採用マーケティングはこちらからアプローチをかける手法のため、見つけ出しコンタクトさえ取れれば潜在層にもリーチできるためです。

ただし、顕在層と潜在層ではアプローチするチャネルもアプローチ方法も異なるため、それぞれにあった戦略を立てる必要があります。

既存社員

既存社員は通常のマーケティングでいうところの「既存顧客」にあたります。

マーケティングでは既存のお客様の解約を防止して継続的に自社の商品・サービスを利用してもらうことが目標になりますが、「解約=退職」と置き換えることでマーケティングの手法やノウハウを応用できます。

既存社員の満足度やエンゲージメントが向上すれば、退職を防止できるうえにリファラル(紹介)採用につながる可能性もあるため、外すことのできないターゲットといえるでしょう。

退職者

過去の退職者が出戻りしやすい環境を整えることも重要であり、通常のマーケティングにおける「再契約」を意味します。

退職者のなかには一定数出戻りを希望する人が存在するため、良い関係を保つことで即戦力人材の再雇用につながる可能性があります。

退職しても関係を続けられるよう、退職者のグループを作成して最新情報を定期的に発信するなど、継続的にリレーションを維持できる環境を作るのが理想です。

過去の求人応募者、 辞退者

過去の求人に応募して不採用になった人材や退職者も有望なターゲットです。

時間経過とともに自社の状況や採用要件が変化するため、当時縁がなく不採用・退職に至った人材でも適合するケースや、相手方が要件を満たせるレベルまで成長している場合もあるでしょう。

何かしらの方法で過去の応募者をプールできるのが理想であることに加え、仮に不採用になっても良い選考体験であればシェアしてくれる可能性もあるため、先々を見据えて誠実に接する必要があるでしょう。

 

採用マーケティングのメリット

採用マーケティングの導入には以下のようなさまざまなメリットがあります。

  1. ターゲットからの応募が増える
  2. 採用した人材が入社後活躍できるようになる
  3. 採用コストが削減できる
  4. 採用のPDCAが回せるようになる

ターゲットからの応募が増える

採用マーケティングを行うことで応募総数が増えるだけでなく、自社が求める採用ターゲットからの応募も増加する可能性があります。

適切なマーケティングの手順を踏むことでターゲットや訴求方法が明確になり、応募者自身が自分に合う会社かどうかを判断しやすくなるためです。

このような応募者は希望条件や企業カルチャーとのミスマッチが少なく、選考・内定辞退の減少、早期退職の軽減にもつながるでしょう。

採用した人材が入社後活躍できるようになる

従来の採用手法は採用活動単体で完結していたため、選考時と入社後のギャップが生まれやすく、応募者の特性や個性などに関わらず一定の教育を施す傾向にあります。

しかし、採用マーケティングでは採用後の配属・活躍・愛着までを見据えてファネルを設計して行動変容を促すため、必然的にその人材が活躍できる可能性が高まります。

採用した人材が希望するポジション、または強みを遺憾なく発揮できるポジションにアサインできれば、活躍の可能性はさらに高まるでしょう。

採用コストが削減できる

採用コストが削減できるのも採用マーケティングを行うメリットです。

企業側が能動的に発信を行うことで「求人広告を出さないと認知してもらえない」という状況を脱却でき、求人媒体や転職エージェントなどの高単価サービスへの依存度が下がるためです。

加えて、入社後の早期退職が減少することで、教育にかけたコストのロスや採用活動のやり直しも減らせるため、さまざまな面でコストの削減が期待できるでしょう。

採用のPDCAが回せるようになる

採用マーケティングを行う最大のメリットはPDCAが回せるようになることです。

仮に思うような成果が出なかったとしても、数値化できるデータが多いため分析がしやすく、改善すべき点も明確になる傾向にあります。

採用マーケティングは短期間で効果が出るものではありませんが、中長期的にPDCAを回すことでブラッシュアップしやすいため、有効な方法を確立できるまで根気強く取り組むことが大切です。

採用マーケティングの進め方・流れ

ここでは採用ブランディングを実行する際の進め方と流れについて、以下7つのステップで解説します。

  1. 自社を分析して理解を深める
  2. 求める人物像のペルソナを設定する
  3. CXを設計する
  4. アプローチチャネル・手法を設定する
  5. 採用・定着までのファネルを設定する
  6. CXに応じた採用コンテンツを設計する
  7. 目標と実績を管理してPDCAを回す

1.自社を分析して理解を深める

まずは自社をさまざまな角度から分析し、理解を深めましょう。具体的には以下のような項目が挙げられます。

  • 経営理念・ビジョン・ミッション
  • 事業内容
  • 経営方針
  • 社風・風土
  • 自社の主力商品・サービス
  • 自社ならではの強み・差別化ポイント
  • 業界内での立ち位置・競合
  • 今後の課題

これらの情報は今後の採用活動の骨子となる部分で、採用活動を通して求職者に自社の魅力や強みを余すところなく伝えられるよう、具体的・網羅的に分析しておく必要があります。

2.求める人物像のペルソナを設定する

続いて、自社の課題や経営方針などにもとづいて、求める人物像のペルソナを設定しましょう。

ペルソナとはマーケティング用語の1つで、自社の商品やサービスを利用する典型的・平均的な架空の人物モデルを指します。ペルソナは年齢・性別・居住地・家族構成・過去の経験・趣味・ライフスタイルなどを設定し、ターゲットを詳細に具現化するのが一般的です。

これを採用に応用することで自社が求める人物像を具体化でき、実際に行う施策や工程の解像度が上がります。

3.CXを設計する

続いて、求職者が入社して活躍するまでのCX(キャンディデート・エクスペリエンス)を設計します。

CXとは、求職者が自社を認知したところからどのような心情変化・体験をしていくのか、入社後にどのように活躍していくのかまでを細かく設計することです。

CXを可視化した図を「キャンディデートジャーニーマップ」と呼び、このマップを設計することで理想と現実のギャップや優先順位が明確になるため、求職者へのアプローチをより鮮明に描けるでしょう。

4.アプローチチャネル・手法を設定する

理想とするCXを実現するために、候補者に対して効果的な発信チャネル・手法などを設定しましょう。

よく利用されている代表的なチャネル・手法は以下の通りです。

  • 採用メディア
  • オウンドメディア
  • リファラル採用
  • SNS
  • イベント・ミートアップ

どの手法も一長一短であり、ターゲットの属性によって有効なチャネルも異なります。自社の状況やリソース、実現したいCXにあわせて適切なものを選んだり、組み合わせたりすると良いでしょう。

5.採用・定着までのファネルを設定する

採用マーケティングでは、自社を認知してもらうことから始まり、選考・採用・定着・エンゲージメントまでをファネルとして設定する方法が効果的です。

各ファネルの遷移率に仮説を設定しておくことで、採用活動が思うように進まない場合にどの段階に問題・原因があるのかを特定しやすくなります。

アプローチするターゲット層が広いため、応募や選考よりさらに前段階である認知をスタートラインにするのが一般的です。

6.CXに応じた採用コンテンツを設計する

CXやファネルが設定できたら、それを実現するための採用コンテンツを設計しましょう。

どの段階でどのようなメッセージを伝えるのか、その段階が終わったときに求職者に抱いてもらいたいイメージなどを設定し、CXと連動するコンテンツを設計することが大切です。

用意するコンテンツによっては専門技術や工数を要するため、内製にこだわらず外注も検討しましょう。コスト面が気になる場合は、専門知識不要でコンテンツ作成ができるCMSツールを活用するのもひとつの方法です。

7.目標と実績を管理してPDCAを回す

採用マーケティング成功の要は、設定した目標と実績を管理しながらPDCAを回すことにあります。

採用マーケティングは1クールで完結するものではないうえ、経済状況や社会情勢などの影響を受けながら、求職者のニーズや主流となる発信チャネルなどが変化します。

事前に設計したファネルや仮説の数値とズレが生じた場合は、施策や行動を変えるのか、目標を変えるのか適宜判断する必要があります。正しい判断をするためにはまず実行すること、加えて継続的にデータを蓄積することが重要です。

 

採用マーケティングで重要なポイント

採用マーケティングを効果的に運用するために、特に重要となる2つのポイントを解説します。

無理のないファネル設計をする

ファネル設計をする際は、無理のない実現可能な範囲で設計することが重要です。

各ファネルで希望的な数値設定をすると目標未達になってしまうケースが多く、目標数値との乖離があまりにも大きいと改善すべき点を特定することが困難になってしまったり、早々に挫折してしまったりするためです。

運用し始めの頃は無理のない推移率・遷移率を設定しておき、目標を達成する成功体験を積めるようにしておくと良いでしょう。

目標と実績を適切な頻度で管理する

採用マーケティングでは、設定した目標と実績をどの程度の頻度で管理するかも重要です。

頻度が低すぎると、目標と実績が大きく乖離した場合に気付くのが遅れたり、リカバリーが効かないところまで進行してしまいがちです。

逆に、頻度が高すぎると場当たり的な施策が増えてしまい、工数の増加や各施策に対する効果検証が困難になるなど、当初の戦略が崩れてしまうケースも少なくありません。

あらかじめ頻度を決めておくことは大切ですが、運用しながら適切な頻度に調整していくことも意識しておく必要があります。

あわせて、ゴールから逆算して各ファネル・工程において適切なKPI(中間指標)を設定しておくことで、進捗や乖離状況をより正確に把握できるでしょう。

採用マーケティングは戦略と実行のバランスが大事

採用市場や求職者の価値観の多様化などの影響で、従来のやり方の限界が見え始めており、採用手法のアップデートが求められています。

限られた転職顕在層を取り合うのではなく、既存社員の退職防止、過去の退職者や不採用者まで幅を広げて採用機会を創出する「採用マーケティング」では、ターゲットにあわせた戦略と実行のバランスが鍵を握っています。

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