労働人口の減少や個人の情報収集手段の多様化により、求人サイトや人材紹介による従来の採用手法が機能しづらくなってきました。そこで新たな採用手法の1つとして注目を集めているのが「採用広報」です。
しかし、採用広報の詳しい内容や取り組み方がわからず、なかなか一歩を踏み出せないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、採用広報の目的やメリット、具体的な取り組み方や手法などを網羅的に解説します。
採用広報を活用して従来の採用手法から脱却したいと考えている方は、是非参考にしてください。
採用広報とは
採用広報とは、自社の要件を満たす人材を採用するために行う広報活動を指します。
具体的には、採用HP・ブログ・SNSなどを活用し、自社の魅力・優位性・働くメリット・現場の声などを幅広く積極的に発信し、自社の存在を知らせつつ興味を持ってもらい、母集団形成や採用につなげていきます。
企業によっては「採用マーケティング」と呼ぶケースもありますが、これは採用活動にマーケティングの考え方やフレームワークなどを取り入れることを指すため、厳密には少し意味合いが異なります。
採用広報の目的とメリット
採用広報を行う目的・メリットとして以下の4点があげられます。
- 入社後活躍できる人材の獲得
- 自社に合った人材からの求人応募増加
- 採用プロセスの効率化
- 採用コストの削減
入社後活躍できる人材の獲得
採用広報の最終的な目的はあくまで「入社後に活躍できる人材の獲得」です。したがって、広報すべき情報やコンテンツは自社が求める人材(ターゲット)に響く内容、興味喚起できる内容であることが重要です。
そのためには、あらかじめ自社の求める人物像を明確にし、そこから逆算して広報の手段や内容を組み立てていく必要があります。
自社に合った人材からの求人応募増加
あらかじめターゲットを明確にして広報活動に取り組むことで、求職者側は「この会社は自分に合いそう・合わなそう」といった判別がしやすくなります。
結果的におのずと自社の価値観やカルチャーにあった人材からの応募が増加することになり、同時に応募段階におけるミスマッチを未然に防ぐことにもつながるでしょう。
採用プロセスの効率化
採用広報を行うメリットの1つに、採用プロセスを効率化できる点が挙げられます。
求める人材から逆算して広報活動の内容を組み立てていくため、どの段階で何を伝えるか、何を見極めるためにどのような選考を行うかなどが明確になるためです。
採用広報は単体で完結するものではなく、最終的な目的を果たすために全体戦略や選考内容と連動している必要があります。
採用コストの削減
採用広報を上手に活用できれば、従来の手法よりも採用コストを削減できる可能性があります。
採用活動全体が効率化できるため、単純に工数や稼働人員を抑えられるためです。さらに継続していくことで自社のブランディングが醸成されていくため、求人媒体や人材紹介に依存している状態を脱却できる可能性もあります。
採用広報が注目される背景・理由
近年、採用広報が大きく注目されるようになった背景・理由は以下の3つです。
- 消費者の情報収集方法が多様化しているため
- 顕在層以外にも認知拡大する必要が生まれたため
- 求職者に選ばれる必要性が増したため
消費者の情報収集方法が多様化しているため
求職者に限った話ではなく、消費者の情報収集方法が多様化しているため、従来の求人広告だけでは求める人材にリーチしきれず、結果的に採用活動に苦戦する企業が増加しています。
この問題に対応するためには、現在の消費者(採用ターゲット)が日常的に利用している情報収集の手段を理解・分析し、さまざまな場所に網を張って情報発信していく必要があります。
顕在層以外にも認知拡大する必要が生まれたため
従来の採用手法では十分な母集団形成ができなくなってきたことから、転職サービスを利用している顕在層以外にも認知拡大する必要が生まれました。
つまり、自分から積極的に転職活動は行っていないものの、「良い会社があれば転職したい」「スカウトなどがあれば検討したい」と考えている転職潜在層にもリーチする必要があるということです。
求職者に選ばれる必要性が増したため
ここまでに解説した理由に加えて、継続的な労働人口の減少も相まって、採用競争は年々激しさを増しています。近年は限られたパイを企業間で取り合う「売り手市場」であり、求職者が企業を選ぶ立場になっているといえます。
そのため、無数にある企業から自社が選ばれるために、採用広報を通じて自社の魅力を広く伝える必要があるのです。
採用広報の前提:全社で取り組む
採用広報が従来の採用手法と決定的に異なる点は、全社を巻き込んで日常的に行う必要があるという点です。
採用広報で発信する情報、すなわち求職者が求める情報は給与や待遇などのハード面だけではなく、企業の価値観・カルチャー・実際に働く人の様子といったソフト面も含まれるためです。
採用担当者や関係部署だけで採用広報を行うのではなく、経営陣を巻き込む、または経営陣が中心となって進める必要があります。
採用広報戦略の立て方
採用広報戦略を立てる際の手順を、以下6つのステップで解説します。
- 自社の経営状況・方針の再確認
- 採用方針・ターゲットの具体化
- 競合比較・差別化ポイントの具体化
- CXの設計
- 採用メッセージ・コンセプトの設定
- アプローチチャネルと発信内容の設定
自社の経営状況・方針の再確認
まずは採用広報の核となる自社の経営状況・方針を再確認し、情報を整理しましょう。具体的には以下のような項目が挙げられます。
- 経営理念・ビジョン・ミッション
- 事業内容
- 経営方針
- 社風・風土
- 自社の主力商品・サービス
- 自社ならではの強み・差別化ポイント
- 業界内での立ち位置・競合
- 今後の課題
自社の状況を効率的かつ正確に分析するために、「3C分析」「4P分析」「PEST分析」などのフレームワークを活用するのもひとつの方法です。
採用方針・ターゲットの具体化
続いて、自社の採用方針やターゲット(求める人物像)を具体化しましょう。
ターゲットの設定が曖昧だと、採用広報の方向性や訴求ポイントなどがブレやすくなり、結果的にターゲット層以外からのミスマッチな応募が増加してしまうため注意が必要です。
ターゲットを具体化するためには、年齢・学歴・職歴・スキル・価値観などの要素を組み合わせて、解像度の高い架空の人物像「ペルソナ」を設定する方法がおすすめです。
競合比較・差別化ポイントの具体化
ターゲットに向けて効果的に広報を行うために、競合比較をし差別化ポイントを具体化しましょう。
自社ならではの強みやオンリーワンといえる決定的な違いを打ち出せれば、数ある企業から自社に応募したい、入社したいと感じてもらえる強い動機になり得ます。
採用広報の効果を最大化するためには、他社と競争するのではなく、異なる土俵で独自性を見い出して、無駄な戦いを避ける立ち回りを意識すると良いでしょう。
CXの設計
続いて、求職者のCX(キャンディデート・エクスペリエンス)を設計しましょう。
CXとは、求職者が自社の存在を認知したところから、選考・入社・実務と段階を追うごとに、どのような心情変化・体験をしていくのかを想定・設計することです。
また、このCXを可視化した図を「キャンディデート・ジャーニーマップ」と呼び、求職者の理想と現実のギャップや優先順位を可視化できます。
CXを設計することで、より鮮明なアプローチ方法が見えてくるでしょう。
採用メッセージ・コンセプトの設定
ここまでに検討してきたターゲットやCXから逆算して、ターゲットに響くメッセージ・コンセプトを設定しましょう。
採用コンセプトとは、ターゲットに響く概念や自社の魅力、強みをキャッチコピーのように短く言語化したものです。同時に、採用活動全体の方向性や方針を表す概念でもあります。
採用コンセプトは語呂や響きの良さで決めてしまう企業が多い傾向にありますが、自社が求める人材に響くこと、伝わることを最優先すべきでしょう。
アプローチチャネルと発信内容の設定
採用広報の枠組みができあがったら、候補者にアプローチするチャネルと具体的な発信内容を設定しましょう。
設定したターゲットによって、情報収集に使っているチャネルや響く内容は異なります。チャネルにはさまざまな種類がありますが、その性質は一長一短のため、複数のチャネルを組み合わせる(メディアミックス)ことも検討すると良いでしょう。
より発見されやすいチャネルを選ぶとともに、各ステップで求職者にどのようなイメージを抱いてほしいかを考え、CXと連動したコンテンツを設計することが重要です。
採用広報発信で使える手法
採用広報の発信手段として使える代表的な手法(チャネル)は以下の6つです。
- 採用HP
- オウンドメディア・ブログ
- SNS
- 採用広報動画
- 採用ピッチ資料
- 音声メディア
採用HP
採用HPは、採用広報の基幹となる媒体になるため、専用ページを用意するのが理想です。
採用HPは、自社を認知する入口というよりは、すでに認知してさらに興味を持った人が訪れる可能性の高いチャネルです。そのため、自社に興味を持った人が知りたいであろう情報を網羅しておくことで、より自社のことを知ってもらうことにつながり、魅力づけや選考参加への意欲を醸成できるでしょう。
オウンドメディア・ブログ
自社で運営するオウンドメディア・ブログも採用広報に有効なチャネルです。
オウンドメディアやブログのメリットは情報量の多さと更新性です。求人サイトや採用HPでは重要度の高い情報を固定して届けることしかできないため、オウンドメディアやブログで自社の様子やリアルタイム性などの不足を補う使い方が一般的です。
ただし、これらのメディアは更新が滞ると逆効果になってしまう可能性がある点には注意が必要です。
SNS
SNSは利用していない人のほうが少ないほど普及しており、今や欠かせない発信手段の1つです。
オウンドメディアやブログよりもさらにリアルタイム性に優れており、拡散力の高さが大きなメリットといえます。
一方で、運用には手間や工数がかかる点、情報が埋もれやすく即効性に欠けるという側面もあります。
SNSの効果は発信する企業の認知度に比例する傾向があるため、状況によってはほかのメディアと組み合わせたほうが効果的な場合もあるでしょう。
採用広報動画
近年は動画メディアやサービスのユーザー数が伸びており、採用広報においても積極的に活用する企業が増加しています。
動画コンテンツは画像やテキストに比べて伝えられる情報が多く、一度作ったコンテンツを継続的に使い回せる点がメリットです。
会社の雰囲気や社員の人柄など、画像やテキストではなかなか伝わらない要素を直感的に伝えられる手段として非常に有効といえるでしょう。
採用ピッチ資料
採用広報のツールとして、採用ピッチ資料を作る企業も増加傾向にあります。
採用ピッチ資料とは、求職者専用に作られた会社説明資料のことです。読者を求職者に限定することで興味喚起しやすく、資料を採用HPなどに公開しておくことで、自社を知ってもらう1つのきっかけになります。
ただし、採用ピッチ資料単体で採用広報は完結できないため、補助ツールとして活用するのが適切でしょう。
音声メディア
テキスト・動画メディアのほか、音声メディアを活用する企業も増えています。コロナ禍で在宅勤務が急速に広がり、「ながら聴き」の需要が高まったためです。急速に伸びた例として音楽アプリ「Spotify」や音声配信アプリ「Clubhouse」などが挙げられます。
動画コンテンツと同様に、音声でしか伝えられない情報もあるため、音声メディアによる採用広報も一定の需要があると考えられます。
採用広報コンテンツ企画の注意点
採用広報コンテンツを企画するにあたり、実施の目的や本質を見失わないことが非常に重要です。
すなわち、採用広報のコンテンツは「自社でできる施策」ではなく、「ターゲットの視界に入りやすい施策」や「ターゲットにリーチできる施策」であることが求められます。どんなに工数や費用をかけて素晴らしいコンテンツを作ったとしても、ターゲットに届かなければ何の意味もないためです。
状況によっては知見のない未知のチャネルにチャレンジしなければならないケースもありますが、ターゲットの年齢層や行動特性を分析し、ターゲットにあわせたチャネル選定・コンテンツ配信を心がけることが成功への近道といえるでしょう。
採用広報施策を実行する際のポイント
採用広報施策を実施する際は、2つのポイントを押さえておく必要があります。
1つ目は採用戦略全体から見て、採用広報がどの位置でどのような要素を担うかを明確にして取り組むことです。採用広報だけで採用活動が完結するわけではないため、最終的な目的を果たすためにほかの戦略とうまく連携させる必要があるためです。
2つ目は経営層も含め全社的に取り組むことです。求職者は社内の様子や働く人たちの関係性、経営層の発言などをつぶさに観察して事実を知りたいと考えているため、広報した内容がハリボテにならないよう、全社を挙げて実際に取り組む必要があります。
採用広報は実態と連動していること、事実を正直に発信することが成功の鍵であると心得ておきましょう。
採用広報の成功事例
採用広報に成功している以下3社の事例を紹介します。
- 株式会社SmartHR
- 株式会社キャディ
- 株式会社メルカリ
株式会社SmartHR
株式会社SmartHRでは、10年近い年月をかけて段階的に採用広報を行ってきました。
立ち上げ期は意識的にこまめな情報発信を行い、登壇・出演・取材の機会には積極的に対応し、まずは自社を認知してもらうことに力を注ぎました。
8年目から本格的に採用広報に取り組み、「BtoBtoE」「Employee First.」という独自の採用コンセプトを掲げ、社内外を問わずさまざまな取り組みを公開し、ブランディングと採用成功に至っています。
株式会社キャディ
株式会社キャディでは、採用広報によって2021年2月からわずか9か月で160名もの採用に成功しています。
同社では採用ターゲットを「ミッションに共感して、バリューやカルチャーを体現できる人材」と定め、採用候補者からのフィードバック、辞退者の傾向を分析してWebサイトの最適化を行いました。
同時に「1兆円企業を目指すうえでの10の課題」を公開し、自社サイトを訪れたユーザーに「自社には多くの課題があり、あなたが活躍できる具体的な場所がある」と赤裸々に訴求することで多くの共感を呼び、前述の成果を実現しています。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは、HR部門に限らず現場社員も積極的に採用にコミットしています。
同社では「People&Culture」という部署を設置し、新卒・中途・グローバル採用・総務など計7チームを編成しています。加えて、オウンドメディア「mercan」を採用広報の中核として、メルカリグループで働く人やメルカリらしさを認知してもらうためにさまざまな活動を行っています。
このような活動が功を奏し、多くの人達に「メルカリらしさ」を定着させること、ターゲット人材からの応募増に成功しています。
採用広報で効率的に自社に合った人材を採用しよう
労働人口の減少や消費者の情報収集手段の多様化などを背景に、採用活動の新たな形として定着しつつある採用広報。
自社の採用方針やターゲット像から逆算し、適切なチャネル・内容を設計してターゲットに響く発信を行っていくことが重要です。
新卒採用支援サービスkimeteでは、30年の採用活動ノウハウを基にコンサルティングサービスを提供しており、内定辞退率9%(一般平均約70%)、3年以内退職率6%を実現しています。
業種業界を問わず様々な企業の新卒採用・採用広報にまつわる課題を解決しています。
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