採用活動を行うに当たって「リアリティショック」という言葉を耳にした人もいるのではないでしょうか。リアリティショックとは、入社前に抱いた期待と、実際の職場環境や業務内容とのギャップにより生じる精神的なストレスや失望感を指します。

入社後に「リアリティショック」を経験する新入社員は多く、モチベーションの低下や早期離職につながるケースが多く見られます。採用が厳しくなってきている現代において、若手の離職は企業にとって大きな損失です。

本記事では、リアリティショックの原因や企業に与える影響、企業が行うべき体策の具体例について解説します。社員の定着率やモチベーションの低下に悩んでいる企業様はぜひ最後までご覧下さい。

リアリティショックとは?

企業に所属して仕事をする際に、入社前に抱いていた期待と実際の職場環境や業務内容との間に大きなギャップが生じることを心理学では「リアリティショック」といいます。特に新卒社員や中途採用者が経験するケースが多く、精神的なストレスや失望感、モチベーションの低下を引き起こす原因のひとつです。

例えば、採用面接や会社説明会で伝えられた職場環境が、実際には異なっていた場合などです。リアリティショックの影響は個人によって異なりますが、最悪の場合、早期離職につながる可能性もあります。そのため、企業側も採用活動や入社後のフォローアップにおいて、このリアリティショックを考慮した対策を講じることが不可欠です。

リアリティショックは特に看護師で多い

リアリティショックは、特に看護師に多い現象です。看護師は数年間の専門教育や訓練を経て卒業し、知識とスキルを磨いています。しかし、実際に職場に出るとギャップを感じる人が多いのです。

例えば、患者さんの対応や医療機器の扱い、シフトの過酷さなど想像以上に身体的・精神的な負担が大きくリアリティショックが起こりやすくなります。卒業後は現場で十分に活躍できると思っていたにもかかわらず、ギャップに悩み適応に時間がかかる新人看護師は少なくありません。このギャップが早期離職の原因になるのです。

リアリティショックが起きる原因

リアリティショックは、現実と期待のギャップから起こる現象ですが、なぜギャップが生じるのでしょうか。原因として、採用プロセスや職場環境、個人の期待値など複数の要因が挙げられます。リアリティショックは、単に個人の問題ではなく、組織全体の課題として捉える必要があるでしょう。以下に、原因をいくつか紹介します。

採用時の説明と入社後の業務内容が異なる

リアリティショックが発生する典型的な原因のひとつは、採用時の説明と実際の業務内容の乖離です。入社後に思ったような業務ができない場合だけでなく、思ったよりも高度な仕事が任されるケースでも発生します。例えば、営業職として採用されたにもかかわらず、実際は事務作業が大半を占めるといった状況です。

このように、採用面接や説明会で伝えられた仕事内容と実際に与えられる仕事に大きな差がある場合、新入社員は期待を裏切られたと感じやすくなります。結果的に、モチベーションの低下や早期離職につながるのです。

職場風土や文化と合わない

入社したはいいものの、価値観や職場風土と合わず、居心地の悪さを感じるケースもリアリティショックの一因となります。例えば、仕事の進め方や雰囲気が自分に合わなければ、居心地の悪さを感じるでしょう。また、自分の価値観と合う人が社内にあまりいないと感じ、孤立感を抱くことも原因です。

特に、チーム内で価値観やコミュニケーションスタイルが合わないと、日々の業務がストレスになりやすく、職場での適応が難しくなります。このようなギャップを最小限に抑えるためには、企業の文化や職場の雰囲気についても採用時に説明することが大切です。

上司や同僚とのコミュニケーション不足

上司や同僚とのコミュニケーションが不足することも、リアリティショックを感じる要因になります。特に、指示があいまいだったりフィードバックが不十分だったりすると、業務の進め方に迷い不安を感じやすくなります。

また、日本特有の「察する文化」に慣れていない新入社員が、判断に戸惑うこともあるでしょう。さらに、リモートワークの増加により、対面でのコミュニケーションの機会が減少していることも原因のひとつです。

このように、コミュニケーションスタイルが合わない場合は、業務の効率低下だけでなく、自信喪失やモチベーション低下につながる可能性があります。

成果が評価されないと感じる

入社後、自分の努力や成果が適切に評価されないと感じ、やる気を削がれるケースもリアリティショックを引き起こします。例えば、新しいアイデアを提案しても無視される、年功序列のため実績を出しても昇進できないなどです。

また、評価基準が不明確であったり、評価者によって基準が異なったりする場合も、モチベーションは下がるでしょう。したがって、企業は、社員が自分の成長を実感できる仕組みを整えることが必要です。

組織構造や意思決定が複雑

部署間の連携がうまく取れず仕事がスムーズに進まない場合や、意思決定が遅いなども原因のひとつです。例えば、何かを提案しても複数の部署の承認が必要で、それぞれの部署との調整に時間がかかるといった状況です。

また、現場の声が経営層に届きにくい環境も、ストレスの原因となります。このような環境では、社員が挑戦する意欲を失うケースが少なくありません。リアリティショックを軽減するためには、社員の創造性や主体性を重んじることや、官僚的な意思決定方法をなくすことも大切です。

環境変化によるストレス

環境変化によるストレスも、リアリティショックの一因となります。特に新入社員に発生するケースで、学生時代と環境があまりにも異なるゆえにストレスを抱えてしまうのです。学生にとっては、仕事の進め方や時間管理、責任の重さなど、全てが新しい経験となります。

こうした変化に慣れるまでに時間がかかり、プレッシャーを感じる人もいるでしょう。

このような環境変化によるストレスは、組織全体の生産性にも影響を与えます。そのため、企業は新入社員の環境適応をサポートすることが不可欠です。

リアリティショックが企業に与える影響

リアリティショックは、企業全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。理想と現実のギャップに直面することでモチベーションの低下が生じ、結果として企業の業績や評判に悪影響を与えかねません。以下では、リアリティショックがもたらす具体的な影響を詳しく解説します。

離職率が増加する

入社後の現実と入社前のイメージとのギャップが大きいほど、離職率は高くなる傾向があります。特に、新入社員が、仕事に対して「こんなはずではなかった」と感じた場合、不満が解消されない限り、早期退職の可能性は高まるでしょう。

また、リアリティショックは新入社員に限ったことではありません。理想と現実のギャップが大きいほど精神的に追い詰められるため、ベテラン社員が転職を考えるきっかけにもなります。こうした離職率の増加は、採用コストや研修コストの増加にもつながるため、長期的に見ると大きな損失となるでしょう。

生産性が低下する

期待と現実のギャップに直面した従業員は、仕事への意欲を失い、業務効率が落ちやすくなります。具体的には、集中力の低下やミスの増加、積極性の欠如などにつながり、個人の業績だけでなく、チーム全体の生産性も下がるのです。

また、リアリティショックを経験した従業員は、自信を失うことがあります。そのため、新しい挑戦を避けたり、難しい課題に対して消極的になったりするケースも少なくありません。長期的には、このような状況が組織全体のパフォーマンスを低下させます。

会社のブランドイメージの低下

リアリティショックによって社員が十分なパフォーマンスを発揮できないと、企業の外部評価にも影響がおよびます。特にお客様に対して十分なサービスや商品を提供できない場合、悪い評価を受けて、信頼を失う恐れがあるでしょう。

また、離職した社員がSNSや口コミサイトなどで企業の内部事情を暴露したり、悪い評価を投稿するケースも増加しています。こうしたネガティブな口コミによって、採用活動に悪影響を及ぼし、応募者が現象するケースも少なくありません。

企業ができるリアリティショックへの対策

企業はリアリティショックを未然に防ぐために、さまざまな対策を講じる必要があります。現実とのギャップを縮めることで、入社後の戸惑いを防ぎ、定着率を向上させることが可能です。以下では、企業が行うべき対策の具体例について詳しく解説します。

インターンシップや職場見学の実施

インターンシップや職場見学は、応募者に実際の職場環境を体験してもらう貴重な機会です。実際に職場の雰囲気や業務内容、社員の働き方などを直接見られるため、入社後のギャップを減らせます。

インターンシップでは、業務体験だけでなく、社員と交流する機会を設けると効果的です。

できるだけ多くの質問に回答し、疑問や不安を解消することがリアリティショックを未然に防ぐことにつながります。

最適な採用手法を取り入れる

自社にとって最適な採用手法を取り入れることも、採用のミスマッチを防ぎリアリティショックの発生を抑える効果があります。例えば、従来の書類選考や面接だけではなく、適性検査やグループディスカッションなどを取り入れることも有効です。

また、ジョブ型採用を導入し実際に働いてもらうことで、体験してもらうのも良いでしょう。決して簡単ではありませんが、ポイントは応募者の能力や適性をより正確に把握することです。

OJTを実施する

入社後一定期間のOJTを通じて、採用者の業務内容を明確にしたり、メンタルケアなどのサポートを行ったりすることも有効です。新入社員が業務に慣れるまでの間、経験豊富な先輩社員がついて指導することで、実務の流れをスムーズに理解できるようサポートします。

OJTの実施に当たっては担当者の選定も重要なポイントです。経験だけでなく新入社員に年齢が近い社員をトレーナーとして起用することで、より親密なコミュニケーションがとりやすくなります。

定期的な面談を実施する

採用後の数ヶ月間は、なるべく頻繁に面談を実施してフォローすることが重要です。面談の頻度は週1回程度から始め、徐々に間隔を広げていくと良いでしょう。面談でギャップを感じていることが判明した場合、すぐに改善方法を模索する必要があります。

ポイントはすぐに改善することです。会社がすぐに改善に動くことで社員のストレスを軽減し、モチベーションの維持につながります。ただし、面談の実施にあたっては、プライバシーへ配慮し過度の介入にならないよう注意が必要です。

社内コミュニケーションを円滑にする

社内のコミュニケーションを円滑にすることは、リアリティショックの予防において非常に効果的です。上記で述べた定期的な面談の実施に加え、チャットツールの導入や、気軽に相談できる窓口の明確化が有効です。

また、ランチ会やイベントなどのコミュニケーションの場を設けるのも良いでしょう。社員同士の交流を深め、気軽に相談できる雰囲気を作ります。相談することで、同じような経験をした社員がいれば、乗り越え方をアドバイスしてくれることもあるでしょう。

リーダー人材への研修を実施

社内環境の整備にはリーダーとなる人材が欠かせません。リーダー人材には定期的に研修を実施して、優れたリーダーシップスキルを身につけてもらうことが重要です。リーダーの質が高いほど、部下は安心して働けます。

研修はEQを高める研修などが一般的です。EQとは「心の知能指数」のことで、数値の高い人は、自分の感情をコントロールでき、円滑な対人関係を築けます。リーダー人材には欠かせない能力です。

柔軟なワークスタイルを用意

従業員個々に合わせたフレックス制度や有給休暇の奨励、長時間労働の是正などを取り入れることでも、従業員のストレスや働きにくさを軽減できます。最近では、働き方が多様化しているため、自社でも取り入れることでワークライフバランスがとりやすくなるメリットがあります。

ワークライフバランスが取れればストレスが軽減し、リアリティショックの発生を抑えられるでしょう。こうした取り組みは、リアリティショックを防ぐことに加えて、既存社員の定着率向上にもつながります。

明確で公平性のある評価制度を取り入れる

明確で公平な評価制度を構築することは、社員のモチベーション維持とリアリティショックの軽減において非常に重要です。評価基準が曖昧であったり、不公平な評価が行われたりすると、自分の努力が報われていないと感じ、職場に対する不満が蓄積します。その結果、離職につながることが少なくありません。

従業員に対して透明性の高い公平な評価制度を作り開示することで、社員は「どうすれば評価されるのか」を理解でき、モチベーションも持続します。

まとめ

リアリティショックは、入社前の期待と実際に入社した後の現実とのギャップが原因で起こります。こうした症状が出ると、モチベーションや業務効率の低下、生産性の低下によるブランドイメージの悪化といった深刻な問題を引き起こします。最悪の場合、離職につながるケースも少なくありません。

このような状況を回避するためには、インターンシップの実施などで、事前に会社を知ってもらうことが有効です。また、採用後も定期的な面談や柔軟な働き方の導入、公平な人事制度の構築といった対策も効果があります。

総じて、適切な採用選考フローを設定したり、計画的に採用を進めたりすることが重要です。

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