近年、人材ポートフォリオが注目されているものの、「人材ポートフォリオとは一体、何?」「何のためにどうやって作るの?」と疑問を抱いている人も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、人材ポートフォリオとは何か、作成する意義や目的、作り方について紹介します。作る際に押さえておくべきポイントや注意点も解説しますので、失敗なく人材ポートフォリオを作成するためにも、ぜひ最後まで目を通してみて下さい。
人材ポートフォリオとは
人材ポートフォリオとは、経営戦略の実現のために、企業の持つ人的資源の構成内容を可視化したものです。人的ポートフォリオでは、企業内のどの部門や役職に、どのようなスキルや適性を持つ人材が、どの程度いるかが分かります。
人材ポートフォリオにより現状の人材の質や量を把握することで、企業は経営戦略の実現に向けて、適切な人員配置や人材育成、採用計画を行うことができます。
人的資本経営の注目度が高まる中で、自社の人的資本を可視化・分析できるツールである人材ポートフォリオも注目を集めているといえるでしょう。
人材ポートフォリオが重視されるようになった背景
近年、人材ポートフォリオが重視されるようになった背景には、下記2点の影響があるといえます。
- 人材版伊藤レポートの発表
- 人的資本の情報開示の義務化
詳しくは次の通りです。
人材版伊藤レポートの発表
人材ポートフォリオが注目される背景には、人材版伊藤レポートの発表の影響が大きいといえます。伊藤レポートとは、経済産業省のプロジェクト「持続的成長への競争力とインセンティブ―企業と投資家の望ましい関係構築」の最終報告書のことです。
最初の伊藤レポートが2014年に出された後、2017年に伊藤レポート2.0としてアップデートされ、2020年には人材版伊藤レポートと呼ばれるものが公表されました。人材版伊藤レポートでは、企業の持続的成長のために必要な人的資本経営のあり方が示されています。
その中で、動的な人材ポートフォリオについての重要性も指摘されました。動的な人材ポートフォリオとは、環境や経営戦略が変化すれば、それに合わせて柔軟に採用や人材配置などの最適化を図る人材ポートフォリオのことです。
動的人材ポートフォリオの重要性が指摘されたことにより、人的ポートフォリオの注目度が高まったといえます。
人的資本の情報開示の義務化
人材ポートフォリオが注目されるもう一つの理由としては、欧米で人的資本の情報開示の義務化が進みつつあることが挙げられます。
2018年に国際標準化機構(ISO)が、人的資本に関する情報開示のガイドライン「ISO30414」を公表し、2020年に米国では、全ての上場企業に人的資本の情報開示が義務付けられました。
これらの事態を受けて、日本においても人的資本の情報開示を重視する動きが出てきました。人的資本の情報開示が重視される中で、その情報開示手段として人材ポートフォリオが注目されています。
人材ポートフォリオを作成する意味・目的
人材ポートフォリオを適切に作成するためには、作成の意図を把握しておくことが大切です。ここでは、下記の5つの人材ポートフォリオを作成する意味・目的について解説します。
- 自社の人材を把握する
- 適切に人材を配置する
- 人材や人件費の余剰・不足を可視化する
- 従業員のキャリアを支援する
- 経営戦略に活用できる
自社の人材を把握する
人材ポートフォリオを作成する目的の一つに、自社にどのような人材がいるのか把握するということがあります。
人材ポートフォリオを作成するためには、社員一人ひとりのスキルや能力、適性、実績などを明らかにしていく必要があります。その過程で、どのような人材を自社が抱えているのかが把握できます。
人材の特徴を具体的に把握することで、自社の人材の特性や、部署ごとの人材の特性などを確認することもできるでしょう。
適切に人材を配置する
適切な人材を配置することも、人材ポートフォリオを作成する目的の一つといえます。
自社の業務を効率的に進めるためには、業務内容に合わせて、適切なスキルや能力、特性を持った人材を配置することが大切です。人材ポートフォリオを作成することで、社員一人ひとりの特性を明確に把握できる一方で、適性に合った人材配置ができているかどうかも確認できます。適切な配置ができていないと分かれば、配置換えを検討することも可能です。
このように人材ポートフォリオを作成することで、事業内容や社員の志向に合った人材配置ができるようになります。
人材や人件費の余剰・不足を可視化する
人材や人件費の余剰・不足を可視化することも、人材ポートフォリオ作成の目的の一つです。
人材ポートフォリオを作成することで、どの部署にどのような人材がどの程度配置されているかが明らかになります。これにより、どの部門でどのようなタイプの人材が不足して、どのような人材のタイプが余っているかなどを具体的に把握できるでしょう。
これらの人材の過不足を異動や教育で賄うのか、採用で賄うのかなどを検討することができ、人材配置の無駄をなくすことも可能です。人材の無駄がなくなるため人件費の削減にも役立ちます。
従業員のキャリアを支援する
人材ポートフォリオを作成することで、社員のキャリアを支援することも可能になります。
人材ポートフォリオを作成する過程で、社員がどのような能力を持っていて、どのようなキャリア形成をしたいと考えているかが分かります。それらの社員の特性やキャリア志向を踏まえて、配置提案などのキャリアパスを提示することができるでしょう。
キャリアパスを明らかにすることで社員の士気が上がれば、社員のパフォーマンスも上がることが期待できます。
経営戦略に活用できる
人材ポートフォリオは、経営戦略に活用する目的でも作成されます。
人材版伊藤レポートでは、持続的な企業価値の向上を実現するためには、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠と指摘されていました。さらに、一般的に、経営戦略の実現に必要な人材の質や量と、足元の人材の質や量にはギャップがあり、そのギャップを解消して経営戦略を展開していくことが重要だとも指摘しています。
足元の人材の質や量を把握するために、人材のポートフォリオは役立つといえるでしょう。人材のポートフォリオの作成で足元の人材の状況を把握し、経営戦略の実現に必要な人材の要件に合うように、採用計画や人材配置を行っていくといった対応が可能となります。
人材ポートフォリオの作り方
人材ポートフォリオを作るにはどのような手順が必要か、以下で解説します。手順は大きく分けて下記の5つです。
- 作成する軸を明確にする
- 必要な人材のタイプを定義する
- 自社の人材をタイプごとに分類する
- 人材の余剰・不足を可視化する
- 人材の余剰・不足への対策を講じる
詳しくは次の通りです。
作成する軸を明確にする
人材ポートフォリオを作る際には、経営方針や事業計画を反映した「人材要件」を明確にすることが大切です。そして、明らかにした人材要件を、軸として人材ポートフォリオを作成していくことが重要です。
人材ポートフォリオでは、多くの場合、縦横の2つの軸で区切られた4象限などのマトリックスの形で、人材の状況を表します。その際、縦横の軸に、自社で必要な人材の要件を反映させることにより、自社の要件を満たす人材の分布がマトリックスで把握できるようになります。
そのため、まずは、軸となる要件を明確にすることが大切です。
必要な人材のタイプを定義する
人材ポートフォリオを作成するためには、軸を明確に定めて、必要な人材のタイプを定義することが必要です。
例えば、よくあるパターンとしては、業務の性質で軸とタイプを定義するものです。業務の性質で分類するパターンでは、縦軸に「個人でやる仕事か、チームでやる仕事か」、横軸に「クリエイティブな仕事か、ルーティンワークの仕事か」と要件を定め、下記のように人材タイプを定義します。
・「個人でやる仕事」で「クリエイティブな仕事」:クリエイティブタイプ
・「個人でやる仕事」で「ルーティンワークの仕事」:エキスパートタイプ
・「チームでやる仕事」で「クリエイティブな仕事」:マネジメントタイプ
・「チームでやる仕事」で「ルーティンワークの仕事」:オペレーションタイプ
その他にも、業務タスクで分類するパターンとして「ルーティンワークかノンルーティンワークか」「分析業務か手仕事か」といった2軸で人材タイプを定義する方法などがあります。
自社の人材をタイプごとに分類する
必要な人材タイプの定義ができたら、自社の人材がどのタイプに当たるか分類していきましょう。タイプ分けを行う際には、できるだけ客観的な情報に基づいて分類することが大切です。
上司や周囲の評価といった定性的な情報を鵜呑みにして分類すると、正しく分類できない可能性があるため注意しましょう。適性検査などの客観的で科学的な信頼性の高い情報を元に分類することが大切です。
人材の余剰・不足を可視化する
自社の人材をタイプごとに分類したら、タイプ別の人数や構成比を、本来必要である人数や構成比と比較するなどして、人材の余剰・不足を可視化するようにしましょう。
理想の人材の配置と比べて、現状、どのタイプの人材が多いのか、少ないのかを数値化して把握することで、人材の偏りや余剰・不足を管理できるようになります。
人材の余剰・不足への対策を講じる
人材ポートフォリオで、人材の余剰・不足が把握できたら、適切な人材配置のために対策を講じます。人材の余剰と不足に対する対策としては次のような施策が考えられます。
- 採用
- 退職・解雇
- 人材育成
- 配置転換
人材が足りない場合には、新卒採用や中途採用の他、アルバイトなどの採用といった手段が有効です。また、特定のスキルの人材が足りない場合は、社内の人材のスキルを育てるという方法や、配置転換でスキルのある人を補充するという方法もあります。人材が余っている場合は、配置転換や早期退職制度などで退職を促すといった方法が取られます。
人材ポートフォリオを作成する際のポイント
人材ポートフォリオをスムーズに作成するためには、次のポイントを押さえておくことが大切です。
- 客観的な指標で人材を把握する
- 従業員の意見を尊重する
- 経営戦略を迅速に反映させる
詳しくは次の通りです。
客観的な指標で人材を把握する
人材ポートフォリオを作成する際の社員の能力や特性の評価には、客観的な指標を活用するようにしましょう。
社員の特性を把握するのに人事担当者や上司の主観に基づく評価を利用すると、正しく人材ポートフォリオを作成できない可能性があります。なぜなら評価担当者の所感による評価では、「ハロー効果」という評価エラーが起きている可能性があるからです。ハロー効果とは、一部の印象的な特徴に引きずられて、他の特徴を見落としてしまうことです。
人材ポートフォリオを適切に作るためにも、適性検査や数値で確認できる成果や能力などを元に人材の適性を把握するようにしましょう。
従業員の意見を尊重する
人材ポートフォリオを活用する際には、従業員の意見を尊重することが大切です。
人材ポートフォリオを活用して適材適所の人材配置を行う際に、社員の希望や意思を考慮せずに実行すると社員のモチベーションの低下を招く可能性があります。反対に、社員の希望について配慮した配置転換などを行うことで、社員のモチベーションやエンゲージメントを高めることが可能です。
社員のスキルや能力を最大限に発揮してもらうためにも、社員の要望に耳を傾けて、人材配置や人材育成を行うようにしましょう。
経営戦略を迅速に反映させる
人材ポートフォリオを経営戦略の実現に役立てるためにも、経営戦略を踏まえて作成することはもちろん、経営戦略が変化すれば人材ポートフォリオにも迅速に反映させることが大切です。
企業を取り巻く環境や経営戦略が変化すると、その戦略実現に向けて必要な人材の質や量も変化します。それらの変化に応じて人的ポートフォリオも変化しなければ、経営戦略の実現は難しくなるでしょう。
人材ポートフォリオは、一度作成して終わりという訳ではなく、環境の変化に合わせて変えていくことが、戦略の実現や課題解決のためにも重要です。
人材ポートフォリオを作成する際の注意点
人材ポートフォリオを作成する際には注意点もあります。人材ポートフォリオの作成に失敗しないためにも、以下の点に気を付けるようにしましょう。
- 人材のタイプに優劣をつけない
- 作成には費用と時間がかかることを認識する
人材のタイプに優劣をつけない
人材ポートフォリオの作成では、人材に優劣をつけないことが重要です。
人材ポートフォリオにおけるタイプの分類は、能力の優劣で分けるのではなく適性で分けるようにしましょう。適性で配置することで、さまざまな社員の能力を最大限に活かすことが可能となります。優劣をつけてしまうと、社員から反発や不信感を招き、生産性の低下につながりかねません。
さまざまなタイプの人材を活かすためにも、優劣でなく適性で判断することが大切です。
作成には費用と時間がかかることを認識する
人材ポートフォリオの作成には、費用と時間がかかることを認識した上で取り掛かるようにしましょう。
人材ポートフォリオの作成に当たっては、経営戦略を踏まえるために経営層などと話し合う時間も必要です。また、経営戦略を踏まえた人材ポートフォリオのフレームワークの設定などにも時間と手間がかかります。さらに、社員一人ひとりの適性を把握して分類分けを行うにも多大な時間がかかるでしょう。
人材ポートフォリオは、短期間ではなく長期間かけるつもりで作成することが大切です。
人材ポートフォリオを適切に作成すれば人材の力を最大限に発揮できる
人材ポートフォリオは、人的資源を効果的に活かすために作成されるものです。人材ポートフォリオを作成し、企業の持つ人材の構成内容を明らかにすることで、企業は適切な人員配置や人材育成を行うことができます。
人材ポートフォリオを作成する際には、経営戦略を反映させると共に、客観的な指標で人材を把握し、社員の意見も尊重しながら作成するようにしましょう。人材の力を最大限に発揮するためにも、人材ポートフォリオを適切に作成することが大切です。
もし、人材ポートフォリオの作成や人材ポートフォリオを活用した人材配置や人材育成などにお悩みの際には、新卒採用支援サービスkimeteにご相談下さい。
kimeteでは、これまで培ってきたノウハウを結集した社員教育、組織開発、運営で活きる教育プログラムのサポートが可能です。
以下の資料では新卒や内定者をいかに採用し、適材適所を実現して定着率を維持するべきかなどを解説しております。最後にはkimeteの無料サービスのご案内もございますので、ぜひご覧ください。