会社経営と経営目標の達成に必要不可欠な人事制度。従業員の処遇を決める枠組みのほか、福利厚生・労務管理・従業員育成など、その範囲は多岐にわたります。

しかし、その範囲の広さも相まって、狙い通り機能する人事制度を構築するのは決して簡単なことではありません。そのため、現在ある人事制度を変革したい、設計の仕方を知りたいという経営者や人事責任者も多いのではないでしょうか。

本記事では、人事制度の概要・目的・トレンドに加えて、具体的な人事制度の例や設計する際のフローを解説します。設計時の注意点や導入・変革時のポイントも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

人事制度とは

人事制度とは、従業員を管理・マネジメントするためのルールや仕組み全般を指します。業務領域は多岐にわたり、具体的には以下の通りです。

・等級・評価制度(異動・人事考課・昇格など)
・報酬制度(賃金・賞与・退職金など)
・福利厚生(出張・転勤なども含む)
・キャリアパス
・労務管理(労働時間・休日休暇など)
・従業員育成

広義では上記すべてが人事制度に含まれますが、等級・評価・報酬制度など、従業員の処遇を決める枠組みに限定して「人事制度」と呼ばれる場合もあります。

人事制度の目的

人事制度の目的は、経営目標の実現を見越した人材管理です。

管理することそのものではなく、あくまで経営目標を実現することが目的であり、そこにつながる組織の方向性、人材に対する考え方・価値観などを示したものであることが重要です。

特に等級・評価・報酬制度は、企業が求める行動や貢献を適切に評価するという性質上、人事制度本来の目的が顕著に表れる領域といえるでしょう。

人事制度のトレンド

時代の変化にあわせて日々変化してきた人事制度。近年の人事制度におけるトレンドを4つ紹介します。

複線型人事制度と単線型人事制度

従来の単線型人事制度だけではなく、複線型人事制度の必要性が高まっています。

単線型人事制度とは、1つの職種のなかで管理職となり、管理職としてより高いポジションに上がっていくという縦方向のキャリアのみに適用される人事制度です。

対して、特定の分野で専門性を高めていく人材をスペシャリストとして評価し、役職とは異なる軸で処遇を決定する制度です。

年功序列でない成果主義・能力主義の評価制度

年功序列制度が機能を失いつつあり、それに代わる成果主義・能力主義を軸とした評価制度の必要性も高まっています。
年齢や勤続年数ではなく、仕事の成果や成績、より高度なスキル・能力を正当に評価してほしいという従業員が増えているためです。

ただし、いずれも制度上のメリット・デメリットがあるため、導入の際は注意が必要です。

評価(人事考課)の透明性・公平性の確保

評価(人事考課)の透明性・公平性を求める労働者も増えています。上長との関係性や情意評価など、成果や能力とは無関係かつ不透明な評価基準は、モチベーションやエンゲージメントを低下させるためです。

透明性・公平性が確保された評価基準は従業員の納得感を生み、正しい方向への努力を促し、生産性の向上にも繋がります。

ダイバーシティ&インクルージョン

多様な価値観・考え方・ライフスタイルの人材を受け入れ、それぞれが活躍できる環境作りを目指す「ダイバーシティ&インクルージョン」も重要なトレンドの1つです。

たとえば、女性活躍・障がい者雇用・グローバル人材・育児との両立・リモートワークなど、どのような人・状況でも公平に、自身の能力を最大限発揮して働ける環境が求められています。

 

人事制度の例

人事制度の代表的な6つの例について解説します。

等級制度

等級制度とは、職務・役割・能力などによって従業員を区分または序列化し、各ポジションの権限・責任・処遇などを決定する、人事制度の骨組みともいえる制度です。

等級制度は以下3つの軸・制度で構成されるのが一般的です。

・職能資格制度:人・能力をベースにした制度
・職務等級制度:職務・仕事内容をベースにした制度
・役割等級制度:能力・職能による役割、ミッションなどをベースにした制度

職能資格制度は、業務を遂行するために必要な能力・経験・資格に応じて等級を定めるものですが、必ずしも等級と役職とは一致しません。

職務等級制度は、あらかじめ定義された職務を遂行することに対する等級のため、属人的な要素・能力に関わらず、同一の仕事ができれば同一の処遇とすることを原則とします。

役割等級制度は、職能資格・職務等級の不足を補う制度として、会社によってさまざまな形が採られています。

評価制度

評価制度とは、半期または1年間など、一定期間における従業員の成果や行動を評価する制度です。評価項目(何を評価するか)と評価基準(どう評価するか)」を設計することで、会社が従業員に求める考え方や行動の方向性を指し示します。

評価制度の具体例は以下のようなものです。

・能力評価:職能資格制度に基づく職務遂行能力や成果に対する評価
・職務評価:仕事内容・責任、一定の職務等級に就いていることに対する相対的な評価
・役割評価:その職位に求められる責任や業績への貢献度・影響度に対する評価
・成果評価:目標に対する達成度・業績貢献度・経営課題への解決貢献度に対する評価

これらの評価の結果は、評価時に支給される報酬やその後の等級に反映され、等級によって評価項目や基準が変わるのが一般的です。

報酬制度

報酬制度とは、従業員に支払う給与・賞与などに関する制度であり、具体的な項目や内容は以下のようなものが挙げられます。

・給与体系:基本給・手当・賞与などの決定方法や支給基準
・手当:何に対して、いくらの手当を支給するのか
・賞与:年何回、いつ支払うのか、金額の決定方法
・インセンティブ:どのような成果に対して、いくら支払うのか
・退職金:金額の決定方法や支給時期など

報酬制度は、従業員の行動・成果などに応じて公平に分配される必要があるのはもちろんのこと、業界・地域と比較して適切な水準に設定されていることも重要です。

なお、賞与や退職金は労働基準法などに定めはなく、支給するかどうかも含めて各企業の自由とされています。

福利厚生

福利厚生とは、企業から従業員やその家族に提供する、給与・賞与などを除いた報酬・サービスの総称です。手当・慶弔金などの現金で支給したり、飲食や宿泊施設などのサービスを提供したりと、会社によって形はさまざまです。

よく採用されている代表的な福利厚生は以下の3つです。

・社会保険:従業員やその家族を対象とした公的な医療制度
・社宅・住宅支援:住宅にかかる費用の一部または全部を会社が負担する制度
・各種休暇:産前産後休暇・育児休暇・その他特別休暇など

一部法律で制限されている部分もありますが、従業員の満足度が上がったり、健康的で豊かな生活の一助になるものであれば、種類を問わず福利厚生に分類されます。

キャリアパス

キャリアパスは、企業内でのキャリア形成や昇進の道筋を示します。キャリアパスが設計されていると、将来どのような役職・ポジションに就ける可能性があるのか、そのためにはどのような資格・経験・スキルが必要なのかが明確になります。最終的なキャリアパスとして、定年や再雇用によるキャリアの延長、シニア人材活用まで設計している企業も少なくありません。

加えて、資格取得支援・研修制度の整備などのキャリア開発支援や、本人のキャリア構築をサポートする個別のキャリアコンサルティングを提供している企業もあります。

キャリアパスが明確であるほど自身の将来を見通しやすくなり、長期的な目標管理やモチベーションの維持などに役立つでしょう。

労務管理

労務管理とは、従業員の勤怠・労働時間などの労働環境や福利厚生を管理することです。広義では従業員が健康的に安心して働ける環境作り、法令に基づいた健全な経営の実現なども含まれます。

従業員の管理や環境作りにおいては、従業員の健康管理・ハラスメント対策・ワークライフバランスの推進・メンタルヘルスのケアやサポートなど、従業員の健康管理やハラスメント対策などが挙げられます。

対外的な業務として、社会保険や雇用保険の加入・脱退手続き、職場の安全衛生管理や時間外労働・休日労働の管理・是正など、法令遵守の取り組みや労務リスクの管理なども労務管理に含まれます。

従業員育成

研修や教育制度をはじめとする従業員育成も人事制度に含まれます。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

・教育制度の設計
・新入社員研修の実施
・階層別研修プログラムの整備
・資格取得支援などによる専門性の向上
・リーダーの育成・抜擢

等級制度や評価制度で会社が求める行動や成果を指し示していても、それだけでは個人の資質やモチベーションに依存する形になってしまい、安定的な成果を上げるのは困難です。

積極的に従業員を育成することで一人ひとりの生産性を底上げし、商品・サービスのクオリティを向上させることで企業の目標達成や利益向上の加速が期待できます。

 

人事制度の設計フロー

既存の企業が新たに人事制度を設計する場合は、以下5つの工程で行うと良いでしょう。

1.経営理念・目標と現状分析

まずは経営理念と目標を再確認しつつ、現状との差分を分析しましょう。人事制度は経営理念に紐づいていることが前提であり、そのうえで現状と目標を結びつける必要があるためです。

経営理念に基づき、自社の従業員に対する考え方や価値観をまとめた人事ポリシーを作成し、人事制度の軸や柱とします。

現状分析は、従業員の満足度調査や各部門・各階層へのヒアリングなどの内部的な分析と、競合他社の給与水準や評価制度といった外部的な分析を行う必要があるでしょう。

2.解決したい課題の明確化とシミュレーション

続いて、解決したい課題を明確にして、導入時のシミュレーションを行います。急激に新しい制度に移行してしまうと、生産性・モチベーションの低下や人件費の変動などの副作用が起きる可能性があるためです。

問題点を改善するとともに、導入時には従業員に対しても十分な説明を行い、理解と協力を得る必要があります。やむを得ず急激な処遇の変化が見込まれる従業員には猶予期間を設けるなど、別途フォローも検討しましょう。

3.等級制度・評価制度・報酬制度の設計

シミュレーションを元に、まずは骨子となる等級制度を設計します。どのような階層にするか、その等級に必要な要件・職務などを定義しましょう。

続いて、等級制度と紐づける形で評価項目・評価基準を決めていきます。経営理念や人事ポリシーとも関連付けて、自社が望む方向に従業員の意識や行動が向くように設計することが求められます。

さらにここから、評価制度に基づく報酬制度を設計します。等級ごとに給与や手当の上限・下限を設定しますが、無理なく生活できる範囲であるか、人件費総額に問題はないかなど、広い視野でバランスを取ることも重要です。

4.そのほかの人事制度の設計

等級制度・評価制度・報酬制度に補うべきポイントがある場合や、独自性を出すためにプラスしたいポイントがあるなどの場合は、そのほかの人事制度を設計しましょう。

賞与・退職金・インセンティブなどの内容や、設定するか否かは各企業の自由です。これらの制度によって経営理念や人材ポリシーを体現したり、従業員に人事ポリシーを具体的に伝えるものとして活用している企業もあるため、参考にしてみるのも良いでしょう。

5.制度の定着・運用・更新

設計した制度を想定通り機能させるためには、定着・運用・更新の各フェーズで適切な取り組みが求められます。

定着のフェーズでは従業員への周知・説明を念入りに行う必要があります。それと並行して、評価者の研修やトレーニングを実施し、スムーズに運用できる準備も行いましょう。

実運用において問題点や改善点が見つかったり、経済や法律などの変化に柔軟に対応すべく、不定期で制度を更新・メンテナンスすることも重要です。

 

人事制度設計時の注意点

人事制度を設計する際は、あくまで経営目標・理念をベースに設計することが非常に重要です。なぜなら、人事制度の内容によって従業員のモチベーションや考え方・行動が方向付けられるためです。

企業にとって、従業員の満足度やエンゲージメントを高めることは非常に重要ですが、だからといって従業員の御用聞きになってしまうと、本来の目的を果たせない制度になってしまうため注意が必要です。

導入時は丁寧に説明し、時間をかけてじっくり定着させていくこと、状況に応じて臨機応変に運用・更新していくことが大切です。

 

人事制度改革と組織文化の転換

人事制度の改革や組織文化の転換は反対意見や難題を伴うものです。スムーズに転換させるためには、目的と責任者を明確にし、社内のコミュニケーションを強化することが大切です。責任者がコンサルタントなどの社外の人間であっても、会社の代表が責任を持って意思決定と説明を行う必要があります。

改革や転換の初期段階だけでなく、継続的に試行錯誤とフィードバックを繰り返す文化を醸成し、退職する従業員を出さないよう配慮することが重要です。

 

人事制度は経営目標に紐づく重要な戦略人事的アプローチ

従業員を管理・マネジメントするためのルールや仕組み全般を指す人事制度。経営理念や人事ポリシーに紐づけることに加えて、経営目標の達成につながる方向付けとして機能するように設計・運用することが重要です。

一方で、社会情勢や人々の価値観の変化にともなうトレンドが存在するため、柔軟に制度に組み込むことも求められています。

特に、従業員の区分や処遇を決める骨組みとなる等級・評価・報酬制度、従業員の育成などは階層別に設計し、それぞれに十分な説明を行い理解を得た上で運用する必要があります。

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