学生が就職活動を行う際、親の反対によって内定を辞退せざるを得ない状況が増えています。この現象は「親ブロック」と呼ばれ、近年の就活における課題のひとつです。親ブロックは、学生のキャリア選択に影響を与えるだけでなく、企業の採用活動にも支障をきたす可能性があります。

本記事では、親ブロックの実態や発生理由、企業が取るべき対策について詳しく解説します。

親ブロックとは?

親ブロックとは、就職活動中の学生が内定を獲得したにもかかわらず、親の反対により内定を辞退してしまう現象を指します。この言葉は、特にリーマンショック後の就職氷河期が終わり、有効求人倍率が回復し始めた2014年頃から使われ始めました。

親ブロックの主な原因は、親世代と子世代の価値観の違いです。一般的に、親世代は安定志向が強く、知名度の高い大企業への就職を望む傾向があります。一方、子どもは自分が成長できるなら、ベンチャー企業や中小企業でも構わないと思っているケースも少なくありません。

親ブロックの実態

​​親ブロックは、就活生や企業にとって深刻な問題となっています。まずは、実態を詳しく見ていきましょう。親の不安や懸念が、子どもの就職活動にどのような影響を与えているのか、具体的なデータを交えて解説します。

56%の親が「子どもの就職活動に不安になったことがある」

マイナビが実施した調査によると、56%の親が子どもの就職活動に不安を感じたことがあると回答しています。この数字は、親が子どもの将来に対して懸念を抱き、親ブロックが発生する可能性の確率とも取れるでしょう。

親の不安は、主に以下の点に集中しています。

  • 経営が安定しているか
  • 子どもの希望や意志に沿っているか
  • 成長性が見込める企業か

この背景には、親自身の経験が影響している場合も少なくありません。例えば、親世代が就職活動をしていた頃は、転職も今ほど一般的ではなく、長時間労働や休日出勤も当たり前の時代だったなどが挙げられるでしょう。

参考資料:マイナビ|2023年度就職活動対する保護者の意識調査

女性の方が親から反対される割合が多い

就職活動において、女性の方が親から反対される割合が高くなっています。レバレジーズ株式会社の調査によると、就職活動で親に反対されたことがある学生は全体の22.7%でした。男女別に見ると、男子学生は14.8%であるのに対し、女子学生は33.3%と2倍以上の差があります。

この背景には、女性の働き方に対する課題が影響していると考えられるでしょう。例えば、結婚や出産後のキャリア継続の難しさや、職場での男女格差などが、親の不安を高めている可能性があります。

参考資料:レバレジーズ株式会社|就職活動における「オヤカク調査」

就活を反対された理由は「ネットで良くない評判を聞いた」や「将来性がない」

親が子どもの就職活動に反対する理由として「ネットで良くない評判やうわさを聞いた」と「将来性がない」といった意見が多数です。レバレジーズ株式会社の調査によると、就活に反対された具体的な理由は、男女で異なっています。女子学生の場合、最も多かった理由は「ネットで良くない評判やうわさを聞いた」でした。

一方、男子学生の場合は「将来性がない」が最も多い理由です。しかし、ネット上の情報は必ずしも正確とは限らず、うわさや偏った見方で掲載されていることも少なくありません。また「将来性がない」といった判断も、親世代の価値観や経験に基づいた偏見の場合も多く、必ずしも正しいとは言えないでしょう。

参考資料:レバレジーズ株式会社|就職活動における「オヤカク調査」

企業が内定を出した学生に確認する「オヤカク」も増えている

近年は、企業が内定を出した学生に対して行う「オヤカク」が増加傾向です。「オヤカク」とは、企業が内定者に対して入社について親の承諾を得ているかを確認したり、直接親に入社承諾の確認を行ったりすることを指します。

マイナビの調査によると、オヤカクを受けたことがある学生の割合は52.4%で、半数以上の学生が経験しているのです。このオヤカクの増加は、親ブロックの問題が企業側にも認識され、対策が取られ始めていることを意味します。

つまり、オヤカクは、企業にとって内定辞退のリスクを軽減し、優秀な人材を確保するための重要な手法となっているのです。

参考資料:マイナビ|2023年度就職活動対する保護者の意識調査

なぜ親ブロックが生まれるのか

親ブロックが生まれる背景には、社会問題や親子関係の変化があります。

近年では就職活動に関して、親が子どもの決定に介入する現象がより顕著です。

この章では、親ブロックが発生する主な理由について詳しく解説します。

不況の中で子どもには安定した企業に望む傾向が強い

経済の不安定さが増す中、親が子どもの就職先に求めるのは「安定性」です。マイナビの調査によると、子どもが入社する企業に求める条件として「経営が安定している」を挙げている人が48.8%で最多となっていることからもわかります。不況の時は、企業の倒産やリストラのニュースが頻繁に報道され、このようなネガティブ情報を耳にすると、親は子どもの将来に対して強い不安を抱きやすくなるのです。

特に、バブル崩壊後の「就職氷河期」を経験した親世代にとっては、安定した職場への就職を第一に願うでしょう。こうした不安から、子どもが安定性よりも挑戦したい気持ちや夢を重視してベンチャー企業などを選んだ場合には、反対する傾向が強まります。

参考資料:マイナビ|2023年度就職活動対する保護者の意識調査

ブラック企業のニュースが心配を生んでいる

近年、ブラック企業に関するニュースが大きく取り上げられ、その影響で親の不安が高まるケースも少なくありません。長時間労働やパワーハラスメント、過労自殺といった事例が報道されると、親は「自分の子どもがそのような過酷な環境で働かされるのではないか」と不安になるでしょう。

こうした子どもの健康や幸せを願う親心から、就職先の選択に過剰に介入してしまい、親ブロックとして現れる可能性があります。しかし、実際にはそのような企業は少数派です。

親の世代が今の会社や働き方に理解が足りていない

現代は多様な働き方があり、正社員だけでなくジョブ型雇用やフリーランスといった、親の世代では一般的ではなかった新しい働き方が急速に広まっています。しかし、親世代の多がうした業種に対する理解が不十分なことも、親ブロックを引き起こす要因のひとつとつです。

親の世代は、終身雇用を前提とした大手企業での安定思考が主流でした。そのため、新しい形態の仕事や不安定な仕事に対して、不信感や不安を抱いてしまうのです。こうした働き方に対する理解不足が、子どもの就職先に抵抗感を持つ原因となっています。

家族の親子関係がより密接になっている

大家族から核家族へと家族の形態が変化し、親子関係がより密接になってきたことも原因のひとつです。さらに、少子化によって一家族当たりの子どもの数が減少し、1人の子どもに対する親の関心や期待が以前よりも高まっています。そのため、親は子どもの進路や就職活動に対してより強い関心を持ち、その結果、親ブロックが発生するのです。

マイナビの調査でも、保護者の56%が「子どもの就職活動に不安になったことがある」と回答しています。これは、親が子どもの将来に強い関心を持ち、積極的に関与しようとする姿勢の表れと言えるでしょう。しかし、このような状況は必ずしも良い結果をもたらすとは限りません。

過度な干渉により親の価値観を押し付けることで、子どもの希望や才能を無視してしまう可能性があります。

参考資料:マイナビ|2023年度就職活動対する保護者の意識調査

親ブロックが発生しやすい企業の特徴

親ブロックが発生しやすい企業にはいくつかの共通点があります。これらの特徴を把握することで、事前に対策を講じることが可能です。

それぞれ見ていきましょう。

社名が知られていない

社名が一般に知られていない企業は、親ブロックが発生しやすい傾向にあります。親が「何をしている会社なのか」や「どんな会社なのか」といった疑問を抱きやすいためです。知名度が低い企業だと、業務内容や信頼性に不安を感じ、親は不信感を抱きやすくなります。自分が知らない企業名を聞いただけで、不安を感じる親は少なくありません。

「広く知られている企業=優良企業」といった先入観が、知名度の低い企業に対して警戒心を抱きやすい原因となるのです。このように、子どもの将来を案じるあまり、よく知らない企業への就職に反対する傾向があります。

ベンチャー企業・中小企業

ベンチャー企業や中小企業は、大企業と比較して親ブロックが発生しやすくなります。親世代は、安定した収入や福利厚生を重視する傾向が強く、小規模の企業に対して不安を感じるでしょう。例えば、ベンチャー企業は成長過程にあるため、経営基盤が不安定だと捉えられがちです。

また、中小企業においても、規模の小ささから親の不安を招きやすい傾向です。特に、景気変の影響を受けやすい中小企業の特性は、親ブロックの原因となります。このように、親は子どもの長期的な安定を望むため、やりがいなどの魅力よりも安定性を重視する傾向があるのです。

業界のイメージが悪い

業界全体のイメージが悪い場合、その業界に属する企業は親ブロックの対象になりやすい傾向があります。例えば、過去に長時間労働が問題となった業界や、不祥事が報道された業界は、特に不安を感じやすいでしょう。また、ネガティブなうわさが多い業界も、親ブロックの対象となります。

しかし、業界の中でも健全な企業は多く存在し、業界全体のイメージが悪いからといって、全ての企業が同じというわけではありません。逆に、過去において悪いイメージがついた企業ほど、改善されているでしょう。

採用前後に企業ができる親ブロックの対策

親ブロックは保護者向けに採用前と採用後の対策を行うことで、防止できます。ここでは、企業側でできる対策を見ていきましょう。

企業のホームページを充実させる

親ブロックの対策として、企業のホームページの充実は効果が高い対策です。多くの親は、子どもが内定を受けた企業のホームページを調べ、その企業が信頼できるかどうかを判断します。そのため、内容が不十分だったり情報が古かったりすると不安になり、内定辞退を勧める原因になりかねません。

ホームページを充実させる際には、以下の情報を記載するとよいでしょう。

  • 業績や財務状況
  • 福利厚生に関する情報
  • 労働環境に関する情報
  • 社員の声やインタビュー
  • オフィスの雰囲気が伝わる写真
  • 採用担当者の連絡先

こうした企業の業績や福利厚生などの情報を充実させることで、親が見ても安心できるホームページにすることがポイントです。また、Q&Aページを設けることも、親の理解を深める効果があります。

例えば「教育体制は充実していますか」や「転勤は多いですか」といった質問に対する回答形式で記載するとよいでしょう。

最終選考の最後に親ブロックの実態を伝える

親ブロックへの対策として、最終選考の最後に親ブロックの実態について伝えるのも効果的です。

「当社はあなたを採用したいと考えていますが、念のためご両親に確認して頂きたい」と学生に伝えましょう。

親ブロックの実態を伝えるメリットは、学生に心の準備をしてもらえやすくなる点です。親ブロックを知らない学生も多いため、反対されることで心が折れてしまうケースが少なくありません。事前に伝えることで、学生が早めに家族と話し合いができます。

親向けのオリエンテーションを実施する

親ブロック対策として、企業が内定者の親に対してオリエンテーションを実施する事例が増えています。

オリエンテーションは会社の概要や事業内容、福利厚生などを説明して、不安の解消や会社に対しての理解を深めてもらうことが目的です。

また、企業によっては職場見学や、若手社員との交流の場を設けることで、実際の職場の雰囲気や社員の生の声を聞く機会を提供することもあります。

保護者同伴の入社式を実施する

保護者同伴の入社式を実施する企業も増加しています。この取り組みは、新入社員の親や家族に対して企業の理念や職場環境をより深く理解してもらう機会となり、親ブロックの防止にも効果的です。特に、ベンチャー企業や中小業など、知名度が低い企業ほど効果があります。

直接保護者と接することで、企業の魅力を伝えられるのが大きなメリットです。家族の理解と応援を得ることで早期離職のリスクも軽減されるでしょう。このように、保護者同伴の入社式は、保護者との良好な関係構築にもつながります。

会社案内や自社商品を親向けに送る

親ブロックを予防するには、親に対して会社案内や自社商品を送るのもよいでしょう。特に、企業名があまり知られていない場合は、自社を知ってもらうチャンスとなり親の不安を和らげるための効果的な手段です。

会社案内や商品を手にすることで親が企業を理解してくれれば、子どもに内定辞退を勧めるリスクが低下します。また、実際に商品を使うことで、商品や企業に対しての信頼感も高まるでしょう。このように、企業側からアクションを起こすことも、親ブロックを防止する戦略のひとつです。

内定者の実家に家庭訪問する

内定者の実家に家庭訪問を行うことは珍しいケースですが、実際に訪問している企業もあります。

訪問することで親の意見を直接聞けるため、抱えている不安に対して具体的な説明ができる点がメリットです。

ただし、内定者本人の同意を得ることはもちろん、コミュニケーション能力が高い人材を訪問させなければ逆効果になるケースもあるので、注意しなければなりません。家庭訪問はレアケースではありますが、特に重要な人材や貴重な人材を採用する場合には検討してみてもよいでしょう。

まとめ

親ブロックは、親の価値観や不安が学生の就職活動に影響を与える現象です。親ブロックを防ぐために、企業は内定者や親と早期にコミュニケーションを取り、双方の理解を深めることが重要となります。

例えば、学生に対し親の承諾をもらうことや、親向けのオリエンテーションなど、親に対して企業の信頼性を高める対策が必要です。

こうした取り組みを通じて、親の不安を軽減することが内定辞退率を防ぐためのポイントとなります。

親ブロック以外にも、採用活動を進めるなかで重要なポイントは多くあり、そのすべてを押さえられている企業は非常に少ないです。

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