採用担当者の中には「何を目的に内定者研修を実施すれば良いか分からない」あるいは「入社前に研修するのは違法では」などの悩みをお持ちの方もいるのではないでしょうか。内定者研修は早く戦力になってもらいやすいなど、企業にとってメリットがあります。
ただし、内容に注意しなければ違法となる可能性もあり注意が必要です。本記事では内定者研修の内容や、違法にならないための実施方法について解説します。
事例|内定者研修の内容
まずは、一般的に実施されている内定者研修の事例を5つ紹介します。それぞれに特徴やメリットがあるため、組み合わせて実施している企業も少なくありません。いずれも企業でよく実施されている内容なので、自社の研修内容と比較しながら実施していないものがあれば、検討してみて下さい。
オンライン研修
オンライン研修の特徴は全員が同じ条件で受講できるため、質を一定に保てることです。会場受講の場合は講師から席が遠くて声が聞き取りづらいこともあります。
オンライン研修のメリットは、会場への移動が不要なことと、会場費や交通費などの費用がかからない点です。
仮に、東京でオフライン研修を開催する場合だと、地方の学生が参加できないケースもあるでしょう。また、会場までの交通費や宿泊費用は企業側が負担するのが一般的なため、人数が増えるほど費用がかさみます。
その点、オンライン研修は場所を選ばず参加可能で、費用もかからないことがメリットです。
eラーニング
eラーニングの特徴は繰り返し学習ができることにあります。eラーニングはオンライン研修のひとつですが、リアルタイムではありません。そのため、ビジネスマナーや企業理念などのインプットに向いています。
同じ部分を何度も繰り返して見られるため、理解が深まりやすいメリットがあります。また、その場で質問することはできませんが、自分の都合に合わせて場所を選ばず好きな時間に受講できる点もメリットです。
オフライン研修(グループワークなど)
オフライン研修は参加者が同じ場所に集まるため、コミュニケーションがとりやすいことが特徴です。そのため、グループワークなどのチームワークの強化を目的とした研修に向いています。
同じ空間を共有することで参加者同士の連帯感が生まれやすく、お互いに良い刺激となりモチベーションの向上にもなるでしょう。また、企業の雰囲気を感じ取れたり、どのような同期と一緒に仕事をするのか分からないといった不安の解消にもつながったりといったメリットもあります。
オープンセミナー(公開講座)
オープンセミナーは自由に日程を選べるという特徴があります。特に、内定者が多く全国に内定者がいる場合などは、全国の会場で受講できるオープンセミナーが有効です。オフラインだけでなくオンラインで開催するケースもあります。
外部から講師を招く場合も多く、講義内容も異なるため興味のある講座を選んで参加できる点はメリットと言えるでしょう。
本・資料の配布
本や資料の配布は内定者が自分のペースで読み進められる点が大きな特徴です。本は企業の考え方に近い本や自己啓発などが良いでしょう。内定者に本を配布する際は次のことに気をつけて下さい。
- なぜその本を選んだのかを伝える
- 配布する本は必ず読んでもらう
- アウトプットできる場をもうける
本を読むことで仕事に対する考え方が変わり、精神的成長が期待できるメリットがあります。ただ配布するだけでなく、配布する理由を伝えてから渡すことが重要です。その本から自分が得たものなどを伝えると良いでしょう。
また、読書感想文やレポートを提出させることや、読んだ本についてグループディスカッションを行うなどのアウトプットの機会も必要です。
内定者研修の目的
新卒の内定者研修は、中途採用や既存社員の研修とは目的が異なります。ここからは内定者研修を実施する主な目的を解説していきます。何を目的にするかによって研修内容も変わってくるため、目的をはっきりさせましょう。
入社前に新卒生の不安を解消する
新卒者は初めて社会人として働くため、さまざまな不安を抱えています。不安が募ると内定辞退や、入社後すぐにやめてしまう原因となることも少なくありません。内定者研修によって「うまくやっていけるだろうか」や「本当にこの会社でよかったのか」などの不安を解消することで、仕事に対する意欲が高まります。
このように、内定者研修には心理的なフォローという目的も大きく、内定辞退の防止にも効果的です。
服装・髪色・髪型などのマナーを学んでもらう
新卒者は企業で働いたことがないため、ビジネスマナーを理解していないことがほとんどです。そのため、多くの企業が「社会人としてのビジネスマナーを学んでもらうこと」を目的としています。
社会人としてふさわしい髪型や名刺交換の仕方など、ビジネスマナーを習得することで社会人としての自覚が芽生えるでしょう。自覚を持って入社することでOJTの時間も短縮でき、スムーズに業務につけるメリットがあります。
基本スキルを習得してもらう
実際の業務にあたってはOAスキル(ExcelやWord、Powepoint)や文書スキルが必須です。入社前に基本的なスキルを習得してもらうことで、入社後の業務がスムーズになります。また、もうひとつのメリットは入社後は業務について多くの知識を習得しなければならないため、学習負担が軽減されることです。
入社後に学習しなければならないことが多過ぎると「仕事についていけない」などの悩みが発生しやすく、早期離職につながる可能性もあります。
結束力を強化する
内定者研修で同期が集まることでコミュニケーションが生まれ、グループワークなどにより結束力が高まる効果があります。内定者同士の横のつながりができれば、お互いに良い刺激を受けモチベーションが向上し、結果的に企業運営の効率化が可能です。
また、同じ不安を抱える仲間がいることで「いつでも悩みを相談できる相手がいる」という安心感をもち、心理的な不安が解消され離職防止にもなります。
内定者研修の実施手順
内定者研修は企画から実施まで計画的に実施しなければ効果を得づらくなります。そのため「いつまでにどうなってほしいか」を踏まえて計画する必要があります。
ここでは内定者研修の実施手順を見ていきましょう。研修実施までの流れは以下の通りです。
目的や早期離職の理由をもとに企画内容・テーマを考える
研修の目的によって内容が異なります。例えば早期退職者が多い企業であれば、企業理解を深めるための内容を多めに実施することや、社員との交流機会を増やすなどです。ポイントは、目的を多くし過ぎないことです。
多くの内容を盛り込み過ぎると、中途半端になるばかりか「ついていけない」という不安が生まれてしまうことがあります。研修で不安を感じれば内定辞退につながる恐れがあるため、目的を絞って企画内容を考えると良いでしょう。
実施時期・期間・頻度などをふまえてスケジュールを立てる
内定者研修の実施内容が決まったら、次に「いつ頃に実施するか」や「どれくらいの期間で実施するか」を決めましょう。一般的には内定式が10月1日に行われることが多いため、10月以降に実施する企業がほとんどです。
ただし、内定辞退を防ぐ目的で内定式より前に交流会などを開催するケースもあります。また、研修の実施頻度は月に1回程度が良いでしょう。オンライン研修も活用して集合研修は2ヶ月に1回にするなど、学生の学業にも配慮が必要です。
関係者に実施場所・時間などを連絡する
内定者研修には現場責任者や役員、外部講師といった複数の人が関わります。日程が決まれば早めに連絡しましょう。
研修内容によっても関わる人が変わってくるため、スケジュールを一覧にして「いつ・どこで・何時から」が分かるようにしておくことをおすすめします。講師を依頼する場合は、社内の人であっても講師のスケジュールを確認した上で、研修日程を決めることも大切です。
内定者に参加・欠席の可否を確認する
内定者研修の内容とスケジュールが決まれば内定者に参加を呼びかけます。案内文に開催日時・場所を記載し事前に調整ができるよう早めに通知を行い、出欠確認をしましょう。
複数回に分けて実施する場合で、全日程が決まっていれば記載しておくと予定を立てやすくなり、参加率が高くなります。
通知方法はメールがおすすめです。メールなら履歴が残るため、後から確認しやすくなります。
内定者研修を成功させるためのコツ
内定者研修を成功させるためには、研修内容や手順などの重要ポイントをおさえておくことが重要です。以下に成功のコツを紹介するので、ぜひ自社の研修内容を決める際の参考にして下さい。
メールなどの連絡内容・返信時間を適切にする
一般的には内定者との連絡はメールで行うことがほとんどです。しかし、メールだからといっていつでも良いわけではありません。人によっては、スマートフォンなどに通知が届くよう設定しており、遅い時間に通知があると不快に感じることもあるため、メールを送信する時間には配慮が必要です。
また、問い合わせの回答が遅いと不安になり、企業との距離感が生まれる原因にもなります。このように、メールの送信時間や問い合わせへの迅速な回答など、内定者に寄り添った対応が重要です。
懇親会・内定式などをふまえてスケジュールを作る
内定式に引き続き内定者研修を実施するケースや、内定者研修終了後に懇親会を開くこともあるでしょう。このような場合、長時間に渡って内定者を拘束することになります。人によっては遠方から参加している人もいるため、負担にならないようなスケジューリングが重要です。
また、研修と内定式を別々の日程で実施する場合でも、日程が近いと授業やアルバイトの都合で調整が難しくなる可能性があります。研修スケジュールを決める際は、内定式や懇親会も含めて考えなければスケジュールがタイトになる恐れがあるので注意が必要です。
レポートなどの課題が負担にならないよう設定する
本を配布し感想文を書かせることや、課題を与えてレポートを提出させる研修方法を取り入れる場合は、負担にならないような量にする配慮が必要です。卒業研究や論文を書かなければならなかったり、卒業旅行を計画していたりなど、卒業までの時間を有意義に使いたいと思っている内定者は少なくありません。
そのため、あまりにも多過ぎる課題を与えると、精神的・肉体的な負担になることもあり、入社への不安が募ることにもなりかねません。
グループワークをする場合、会場研修を検討する
内定者同士のチームワークを向上させるために、グループワークを取り入れることも多くあります。グループワークは、オンラインよりも実際に顔を合わせる集合研修スタイルを検討しましょう。
直接顔を合わせるグループワークの方が、コミュニケーション能力やリーダーシップスキルが身につきやすくなります。また他のメンバーからの意見も聞きやすく、自分の意見が他のメンバーにどう受け入れられるかを知ることで、自己評価や自己成長につながるでしょう。
質問の場を設ける
オンラインでも集合研修でも、必ず質疑応答の場は設けましょう。講師が参加者の理解度を確認できることはもちろん、参加者にとっても質疑応答を通じて他人の意見を聞くことで、新たな知識や視点を得られるメリットもあります。
特に、事業内容の説明や決まりごとなどは企業側の一方的な説明になりがちです。参加者は分からないことだらけだということを念頭に置いておく必要があります。
したがって、不安や疑問などを解消する場を設けることで、理解度を確認しながら進めましょう。
違法な内定者研修をしないためのポイント
内定者研修の実施自体は違法ではありません。しかし、ポイントを押さえて実施しなければ違法になる可能性があります。注意点を詳しく解説するので、違法とならないためにも確認しておいて下さい。ポイントは以下の2点です。
欠席を理由に内定取消をしない
内定は「入社予定日を就労開始日とする解約権留保付きの労働契約」となっています。分かりやすく言うと、入社予定日が就労開始日となっているため、内定者に労働の義務はありません。業務に関する内定者研修は労働に該当するため、研修への参加を強制することや自由参加としていても、参加しなければならないように仕向ける行為は違法扱いとなります。
また、欠席したことを理由に内定を取り消すなど、内定者の不利益になる行為も違法となるので注意が必要です。そのため、内定者に「参加したい」と思ってもらえるような研修内容にすることが重要となってきます。
賃金・給料・交通費などを払う
上記で解説した通り、業務関連の内定者研修は労働に該当します。したがって、賃金の対象です。支払わない場合は違法となります。ただし、正式な従業員ではないため、初任給をベースとした賃金を支払う必要はありません。
入社前のため、就業規則は適用されませんので金額の精算や支払方法は自社の規定通りで構いません。賃金計算は働いた分の時給もしくは日当など、アルバイトを雇用する場合と同じ考え方で良いでしょう。
ただし、最低賃金法は適用されるため、地域別最低賃金額以上の支払いが必要です。支払いに関しては、一般的に当日精算が多い傾向にあります。
まとめ
入社前研修は「入社までにどうなっていてほしいか」という目的を設定し、適切に実施することで入社後のOJT負担が減ることや早期離職を防ぐメリットがあります。また、内定者とコミュニケーションを取る機会となり、不安を抱えた内定者のフォローにも効果的です。
研修の実施にあたっては内定者に配慮した内容とスケジューリングを行い、前向きな気持ちで入社できるような体制を整えておくことが重要となります。本記事を参考に自社の研修内容を検討してみて下さい。
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