ジョブディスクリプションの導入は、職務の役割と責任を明確にするために、今や避けては通れないテーマとなっています。しかし、「何から始めればいいのか?」「具体的にどのようなメリットがあるのか?」など、疑問を抱えている人も多いことでしょう。
この記事では、ジョブディスクリプションの目的やメリット・デメリット、具体的な作成方法から注意点まで、網羅的に解説します。組織における人材採用や育成を一層効果的に進めるため、ぜひご活用下さい。
ジョブディスクリプションとは
ジョブディスクリプションとは、個々の職務に関する業務内容や範囲、難易度、必要なスキルなどを具体的に記載した書類のことです。日本語では「職務記述書」を表すもので、ジョブ型雇用や同一労働同一賃金の導入において不可欠なツールとなっています。
ジョブディスクリプションは、職務に対して会社が期待する成果を明確にするために用いられ、採用プロセスでの職務要件の提示、人事評価の基準設定など、組織運営のさまざまな側面で活用されます。
ジョブディスクリプションの目的
ジョブディスクリプションの主要な目的は、職務内容の明確化にあります。ジョブディスクリプションによって、職務に求められる範囲と責任が明らかとなり、社員自身が役割を正確に理解し、目標に向かって効果的に作業を進められるようになります。
また、ジョブディスクリプションは、不明確な役割による誤解やコンフリクトを防ぎ、組織内のコミュニケーションを円滑にする効果も期待されます。人事評価の際の公平性と透明性の確保にもつながり、組織全体の生産性の向上に寄与するでしょう。
ジョブディスクリプションの導入が増加している背景
ジョブディスクリプションの導入が増加している背景には、複数の要因が影響しています。まず、ジョブ型雇用へのシフトが進む中、企業は職務内容や必要なスキルをより明確に定義する必要に迫られています。また、深刻化する人手不足や同一労働同一賃金への対応、さらには外国人労働者の増加など、労働市場の変化が大きな要因です。
ジョブディスクリプションの明確化は、自社に合った人材を確保して適切に配置すること、多様な働き手のポテンシャルを最大限に引き出すことにつながります。企業内での役割や責任を透明にし、より効率的な人材管理を実現するために、ジョブディスクリプションの導入が加速していると考えられるでしょう。
ジョブディスクリプションのメリット
ジョブディスクリプションの導入は、企業に多くのメリットをもたらします。ここでは、以下の導入メリットについて解説します。
- 採用要件が明確になる
- 人事評価が公平になる
- スペシャリストを採用・育成しやすい
- 生産性が上がる
- 給与体系が分かりやすくなる
採用要件が明確になる
ジョブディスクリプション導入のメリットは、まず採用要件が明確になることが挙げられます。職務に必要なスキルや能力を詳細に記載していくため、自社が求める人材像が具体的に定義されます。
企業は、自社にマッチした適切な求職者を効率的に見極められるようになり、採用プロセスの精度と効率が向上するでしょう。また、求職者自身も自分のスキルがポジションにマッチしているかどうかをより容易に判断できるため、双方にとってメリットが生まれます。
人事評価が公平になる
ジョブディスクリプションの導入は、人事評価を公平にするメリットもあります。職務の具体的な内容と目標が事前に明確化されるため、社員一人ひとりが担う業務に対して達成すべき基準が設定されます。
評価プロセス全体において、一貫性のある基準が適用されることとなるため、人事評価の主観性が低下し、公平性が高まるでしょう。さらに、社員自身も自らの貢献を客観的に評価されることで、納得感を持ち、明確な目標に向かって業務に取り組めるようになり、モチベーションの向上にも寄与します。
スペシャリストを採用・育成しやすい
ジョブディスクリプションは、スペシャリストの採用と育成を容易にするメリットがあります。ジョブディスクリプションによって、職務に求められる専門性やスキルが明確になるため、企業は特定の職務に特化した人材を効率的に確保し、育成することが可能になります。
ジョブディスクリプションを活用することは、企業が高度な専門知識や技能を必要とする職務に対し、最適な人材を見つけ、長期的な競争力を保つための基盤となるでしょう。
生産性が上がる
ジョブディスクリプションの導入は、組織全体の生産性向上に大きく貢献します。ジョブディスクリプションによって、職務の役割と責任を明確にすることで、適材適所の配置を実現し、それぞれが最適な環境で自分の能力を発揮できるようになるからです。
社員は自分の目標と期待される成果を正確に理解でき、個人のモチベーションアップと共に、組織全体の効率性が高まります。ジョブディスクリプションは、組織の目標達成に向けた効果的な人材の活用と生産性の向上に直接的に寄与すると言えるでしょう。
給与体系が分かりやすくなる
ジョブディスクリプションの導入は、給与体系を分かりやすくする効果もあります。総合職とは異なり、ジョブディスクリプションでは個々の職務に応じたスキルや成果が明確に定義され、職務内容と給与が直接結びつくためです。
社員は自分の成果が給与にどのように反映されるかを容易に理解できるようになり、給与体系の透明性が高まります。給与体系を社員へオープンにすることは、企業に対する信頼感を生み、エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
ジョブディスクリプションのデメリット
ジョブディスクリプションの導入は、多くのメリットをもたらしますが、いくつかのデメリットも伴います。ここでは、特に注意すべき以下の3点を解説します。
- 柔軟性が低くなる
- ゼネラリストを育成しにくい
- 作成に労力がかかる
柔軟性が低くなる
ジョブディスクリプションのデメリットとして、まず柔軟性の低下が挙げられます。職務内容が詳細に定義されることで、自分の職務範囲内の仕事だけ行っていれば良いという意識が生まれてしまい、組織の柔軟な対応能力を下げることにつながりかねません。
特に、急速に変化するビジネス環境やプロジェクトの多様性が求められる場合、職務記述の厳格さが企業にとっては逆に不利に働くことが起こり得ます。この点は、ジョブディスクリプションを導入する際に慎重に考慮するべき重要な要素です。
ゼネラリストを育成しにくい
ジョブディスクリプションはスペシャリストの採用と育成を促進しますが、一方で、ゼネラリストの育成が難しくなるというデメリットがあります。職務に特化したメンバーばかりが集まると、柔軟で適応力のある人材を育てる機会が減少します。
変化や新たな挑戦に対する、柔軟性や問題解決能力を備えた人材を確保するためにも、スペシャリストとゼネラリストのバランスを考慮した人材育成戦略を検討することが重要です。多様な業務を経験させ、幅広いスキルを身につけるゼネラリストの育成も忘れないようにしましょう。
作成に労力がかかる
ジョブディスクリプションの作成には、多くの時間と労力を要します。特に初めて導入する場合や、職務内容が頻繁に変わる組織では、ジョブディスクリプションを最新の状態に保つための継続的な更新作業が負担となることがあります。
各職務の具体的な内容や必要なスキル、役割、目標などを正確に定義し記載する必要があるため、しっかりと時間をかけて情報収集と分析を行うことが重要です。ジョブディスクリプションの導入を検討する際は、スケジュールに余裕を持たせて進めることが不可欠です。
ジョブディスクリプションの記載項目
ジョブディスクリプションは、以下の8つの項目を中心に作成します。自社の状況に合わせて必要なものを選択しましょう。
- ポジション(職種名):募集する職種の名称です。
- 具体的な職務内容:職務の詳細を、優先度や発生頻度の高いものから順に記載します。
- 期待される目標:職務で達成すべき目標です。数値で表せる測定可能な目標を設定しましょう。
- 職務の予算:職務に関連する予算の範囲や管理方法を明示します。
- 期待する成果:職務によって生み出される成果や期待、価値を記載します。
- 責任や権限の範囲:職務を担当する者が負う責任の範囲や権限を具体的に記述します。
- スキル・資格・経験:職務において必要とされるスキルや資格、経験を記載します。
- 給与・待遇・等級:職務に就く社員の給与や福利厚生、等級、雇用形態などを明示します。
ジョブディスクリプションのサンプル(記載例)
ジョブディスクリプションの各項目の記載例を紹介します。ここで紹介するのはあくまで一例ですので、実際に導入する際は企業の具体的な状況に応じて適宜調整が必要です。
ポジション(職種名) | システムエンジニア |
具体的な職務内容 | 新規顧客向けのカスタマイズソフトウエア開発。要件定義からテスト、導入までの一連のプロセスを担当。 |
期待される目標 | 年間で2つの大型プロジェクトの成功を達成し、顧客満足度を85%以上に保つ。 |
職務の予算 | 年間プロジェクト予算は300万円。予算内での効率的な資源配分を管理。 |
期待する成果 | 高品質なソフトウエアの提供を通じて、顧客の業務効率化と満足度の向上を実現。 |
責任や権限の範囲 | プロジェクトの全体管理責任を持ち、必要に応じて外部ベンダーの選定と契約締結の権限を持つ。 |
スキル・資格・経験 | Java、C#による開発経験3年以上。データベース設計の知識。コミュニケーション能力が高いこと。 |
給与・待遇・等級 | 年俸600万円〜。リーダー等級。フレックスタイム制。研修制度、自己研鑽手当有り。 |
ジョブディスクリプションの作成方法
ジョブディスクリプションの作成は、職務における責任と役割の理解を深める良い機会です。適切なジョブディスクリプションを作成するためには、次のようなステップを踏むことが推奨されます。
- 現場のメンバーにヒアリングする
- 収集した内容を整理する
- 整理した内容に沿って作成する
現場のメンバーにヒアリングする
ジョブディスクリプションの正確性を確保するためには、実際に職務を遂行している現場のメンバーからの情報収集が不可欠です。ヒアリングを通じて、職務の実態や日々の業務内容、必要とされるスキルセットなど、現場の生の声を集めましょう。
このステップは、職務内容と実際の業務との齟齬をなくし、より現実に即したジョブディスクリプションを作成するために非常に重要です。
収集した内容を整理する
ヒアリングで収集した情報は、さまざまな角度から整理する必要があります。人事部門やマネージャー層が中心となり、各ポジションに必要な業務内容を具体的に定めます。業務内容を1つずつ洗い出し、実施理由や方法を明確に精査していきましょう。
さらに、業務を「重要度」「優先度」「頻度」といった複数の軸で数値化し、実態に即した形で整理します。整理の過程で、重要かつ頻繁に行われる業務が洗い出され、職務の本質が鮮明になるでしょう。
整理した内容に沿って作成する
内容が整理されたら、いよいよジョブディスクリプションを作成します。この際、情報の過不足がないよう、重要なポイントがA4サイズ1枚程度にまとめられることが望ましいです。内容は明確で簡潔に、かつ読み手に理解しやすい形で記述することが重要です。
このように適切なステップを踏んで作成することで、ジョブディスクリプションは、求職者に対しても、組織内での人事評価やキャリア開発の基準としても、効果的に機能します。
ジョブディスクリプション導入時の注意点
ジョブディスクリプションを導入する際には、いくつかの考慮すべき注意点があります。効果的な導入を実現するためには、特に以下の3つのポイントが重要となるでしょう。
- 会社全体の意見を反映させる
- 組織全体の業務内容も記載する
- 定期的に更新する
会社全体の意見を反映させる
ジョブディスクリプションの作成にあたっては、該当職務を担当する社員だけでなく、経営層や各部署の所属長を含む会社全体の意見を反映させることが重要です。
より実用的で包括的なジョブディスクリプションを作成するには、組織の各レベルのニーズと期待を踏まえたものにする必要があります。経営層のビジョンや戦略的な目標、部署間の相互作用や連携についての理解を深めることで、さらに職務内容の精度を高められるでしょう。
組織全体の業務内容も記載する
ジョブディスクリプションには、該当職務の業務内容のみならず、組織全体の業務内容や他の職務との連携点についても記載することがおすすめです。各職務が組織内でどのように位置づけられ、互いにどのように連携しているかが一目で理解できるようになります。
さらに、組織全体の業務フローや部署間の相互依存の把握が容易になり、各職務の効率性を高めることにつながります。ジョブディスクリプションは、単に個々の役割を明らかにするだけでなく、組織としての一体感や効率性を高めるための重要な手段となります。
定期的に更新する
ジョブディスクリプションは、一度作成したら完了というものではありません。企業の戦略や目標、業務プロセス、技術の進化など、さまざまな要因により変化することがあります。
そのため、定期的な振り返りと更新が必要です。ジョブディスクリプションを最新の状態に保つことで、常に現状に即した人材管理と組織運営を行うことができるでしょう。変化に柔軟に対応し、継続的な改善と成長を促進するために不可欠な対応です。
ジョブディスクリプションを作成し適切な人材を採用・育成しよう
ジョブディスクリプションの導入は、効果的な人材採用・育成を行い、企業の目標達成を実現するための鍵です。この記事で紹介した、ジョブディスクリプションの作成ポイントやコツを参考にして、組織としての競争力を高めましょう。
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