企業の存続や継続的な成長に欠かせない人材戦略。経営資源の1つである「ヒト」を司る重要な要素であり、経営計画と一致・連動していることが非常に重要です。

一方で、抽象的な概念ゆえに人材戦略とは具体的に何なのか、どのように考え実行していけば良いのかわからないと悩む経営者・担当者も多いのではないでしょうか。

本記事では、人材戦略の概要や目的、人材戦略を構成する5つの要素などについて網羅的に解説します。効果的な人材戦略の策定方法や運用方法もまとめているので、人材戦略への理解を深めたい方はぜひ参考にしてください。

人材戦略とは?

人材戦略とは、企業が経営目標を達成させるために行う、人事領域における戦略全般を指す人事用語です。

具体的には、社員一人ひとりがより高いパフォーマンスを発揮できるよう、人材の採用・育成・適切な配置や異動などを行うことです。

近年は働き方改革やライフスタイルの多様化などの影響を受け、企業を取り巻く環境が急速に変化しています。このような時代の変化、労働者のニーズの変化などに対応するためにも、人材戦略には定期的な見直しが求められています。

人事戦略との違い

人事戦略は人材戦略とほぼ同義として扱われる用語ですが、何に重きを置いているのかが異なります。

人材戦略は企業の経営目標を達成することに重きを置いた「攻めの戦略」であるのに対し、人事戦略は業務上の課題や業務フローなどを改善して生産性を高める「守りの戦略」といえます。

たとえば、従業員のエンゲージメント向上施策や離職率の低下を目指した施策のほか、業務の一部をアウトソーシングして効率化を図ることなどが人事戦略に該当します。

戦略人事との違い

戦略人事も人事戦略とよく似た用語ですが、より経営視点寄りの概念といえます。

戦略人事とは、企業の経営目標を達成するために人的資源の価値を最大化することを目的として、それらを適切にマネジメントする仕組み、または考え方を指す用語です。

たとえば、労働人口の減少・グローバル化・DX化など、現在や近い将来において直面するであろう課題に対して、人事領域から解決を目指すことなどが戦略人事に含まれます。

 

経営戦略と人材戦略を連動させる重要性

経営戦略と人材戦略は連動させることが非常に重要です。

なぜなら、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」から構成される経営資源において、「ヒト」が最も重要な要素と考えられているためです。

「モノ」「カネ」「情報」はいずれも単体で価値や利益を生み出せない「材料」といえる要素であり、これらの価値を高められるかどうかは「ヒト」にかかっているといえます。

企業が経営目標を実現するためには、「ヒト」を適切にマネジメントし、パフォーマンスを最大化すること、つまり人材戦略が不可欠です。

このような背景・関係性から、必然的に経営戦略と人材戦略は連動・一致している必要があるのです。

 

企業が人材戦略を立てる目的

企業が人材戦略を立てる主な目的は以下の3つです。

  • 自社に必要な人材の採用・定着
  • タレントマネジメントの実施
  • 戦略人事との連携

自社に必要な人材の採用・定着

企業は自社に必要な人材の採用・定着を目的として人材戦略を立てます。人手不足・採用競争の激化が続く現代において、人材の確保と定着は最重要ともいえる課題だからです。

闇雲に人材を採用しても、ミスマッチによる早期退職を誘発してしまううえ、仮に定着したとしても期待通りの活躍が見込めない可能性もあります。

活躍する人材の採用・定着を図るためには、自社の目標・目的に合った人材を正確に定義し、定義をもとに正確に見極めて採用する必要があるのです。

タレントマネジメントの実施

タレントマネジメントの実施に役立てることも、人材戦略を立てる目的のひとつです。適材適所な配置を実現することで、組織全体のパフォーマンスの向上や離職率の低下が期待できるためです。

タレントマネジメントは、一人ひとりのスキル・経験・経歴などを一元管理し、人材育成や配置に活かすことを指し、近年多くの企業で導入されています。タレントマネジメントを実施することで組織課題を明確にしたり、問題にいち早く気付けたりするメリットもあります。

戦略人事との連携

人材戦略を立てる目的には、戦略人事と連携して人事戦略を実施することも含まれます。

経営目標を達成するためには、一人ひとりの人材を適切にマネジメントすることで個々のパフォーマンスを高め、個の集合である事業ごとのパフォーマンスを高める必要があります。つまり、人材戦略は事業やプロジェクト成功の土台ともいえる要素です。

このような一貫性を生み出すには、組織の細部にアプローチする人材戦略と、より大きな視点でアプローチする戦略人事の連携が不可欠です。

 

人材戦略を構成する5つの要素

人材戦略は、以下5つの要素から構成されています。
・①採用
・②配置
・③育成
・④定着
・⑤代謝

以下では、それぞれの役割や重要性を紹介します。

①採用

採用は、人材戦略において最も重要な要素といえます。何をするにもまず人材が必要であり、採用した人材の質によって成果が大きく左右されるためです。

一方で、単にスキルや能力が高い人材を採用しても、企業の風土や価値観などとミスマッチがあれば早期退職につながってしまうため、人材戦略としては不十分です。

採用する人材に求めるスペック以外の要素にも注目し、メンタル面においてもしっかりフィットする人材を見極める必要があります。

②配置

人材戦略における配置は、組織全体の生産性や社員一人ひとりのエンゲージメントに影響する要素です。

一人ひとりを得意とする業務に適切に配置できれば、十分にパフォーマンスを発揮してくれるだけでなく、仕事に対する意義ややりがいを感じることにもつながります。

人手不足を解消するための短絡的な手段としてではなく、配置した人が活躍し、期待する成果を上げるためには、根拠を持って戦略的に配置する必要があるのです。

③育成

育成も人材戦略に欠かせない重要な要素です。どんなに優秀な人材を採用できても、自社特有の環境下で最大限のパフォーマンスを発揮できるとは限らないためです。

一人ひとりのパフォーマンスを高め、一定以上の水準に維持するためには、スキルの取得や向上、刷新などを継続的にサポートする必要があります。

育成の効率や質を高めるために、外部から専門性の高い講師を招いて研修を行ったり、効率的に学べるツールを導入したりするのもひとつの方法です。

④定着

採用した人材が定着するよう働きかけることも人材戦略の一環です。

人材の退職・流出は、単に人手が減るだけではありません。それまでの採用や育成にかけた時間やお金が水の泡になってしまうことを意味するためです。

また、労働人口の減少や少子化などによる売り手市場が続く昨今において、人材採用の難易度も上がり続けているのが実情です。このような背景から、社員の定着や離職率の軽減が極めて重要な意味を持つようになりました。

⑤代謝

人材戦略には、採用の反対にあたる代謝も含まれます。

組織を長期にわたり存続させ、生産性や効率を高めるためには、自社に合う優秀な人材を採用・定着させることに加え、そうでなかった人材を整理することも必要です。

代謝の代表例は定年退職やリストラですが、転職の斡旋や何らかのメリットを付与した早期退職施策なども含まれます。

なお、退職する人のメリットや今後の活躍を見越した提案を行うことで、代謝は必ずしもネガティブな要素ではなくなります。

  

人材戦略の立て方・策定の流れ

人材戦略の立て方・策定の流れを、以下5つのステップで解説します。
01.経営戦略・課題のリストアップ
02.解決する課題の優先順位付け
03.施策の列挙
04.予算・リソースに応じた施策の選択とKPI設定
05.実行とモニタリング

01.経営戦略・課題のリストアップ

まずは経営戦略・課題をリストアップすることから始めましょう。

前述の通り、経営戦略と人材戦略は切っても切れない関係にあり、連動している必要があるためです。加えて、現在直面している経営課題を明らかにしつつ、その解決策のひとつとして人材戦略を立てる必要があります。

この後のすべてのステップに影響する重要な骨子となるため、経営陣や幹部社員で十分に話し合いを重ねましょう。

02.解決する課題の優先順位付け

続いて、リストアップした課題に対して、重要度や解決する順番などの優先順位を付けます。

人材戦略は「採用」「配置」「育成」「定着」「代謝」の5つの要素から構成され、それぞれの課題はいずれかのカテゴリーに振り分けられるはずです。

それぞれの課題の重要度・優先順位を鑑みて、どのカテゴリーから着手すべきかを検討すると良いでしょう。

03.施策の列挙

優先順位が決まったら、それらの課題を解決するための施策を列挙していきます。

このような場面では、複数の参加者が自由に発言・ディスカッションしながらアイデアを出していくブレインストーミングが有効です。まずはアイデアの数を出すことを優先し、そのなかから実現可能な施策をピックアップしていきましょう。

04.予算・リソースに応じた施策の選択とKPI設定

続いて、ピックアップした施策の大まかな予算やリソースを試算しましょう。それらの要素をもとに取捨選択し、実際に行う施策のKPIを設定します。

人材戦略に限った話ではありませんが、このような新しい施策は策定して実施することがゴールではありません。PDCAを回しながらブラッシュアップできるよう、KPIを設定して施策の効果を測れるようにしておきましょう。

05.実行とモニタリング

実際に施策を実行しつつモニタリングします。設定したKPIを元に効果検証を行い、必要性に応じて戦略を練り直しましょう。

モニタリングは実行当初だけでなく、継続的かつ定期的に行うのが理想です。社会情勢や法改正など、自社を取り巻く環境の変化により、運用していた人材戦略が合わなくなるケースがあるためです。

近年ではリモートワークなどに代表される働き方の多様化や、ダイバーシティへの対応などがこれに該当します。

  

人材戦略を策定・運用するポイント

人事戦略を策定し、運用する際のポイントは以下の3点です。
・データを活用してタレントマネジメントする
・CHROなど責任者を立てる
・トレンドを押さえた戦略を立てる

データを活用してタレントマネジメントする

人材戦略をより効果的に運用するためには、データなどを活用してタレントマネジメントを実施できるかどうかがポイントです。

人材戦略は扱う範囲の広さと相まって抽象的に取り組んでしまいがちですが、実際に働く社員が意欲的でなかったり、目の前の業務に関心を持てなかったりすると目標達成は困難です。

一人ひとりが十分にパフォーマンスを発揮できれば、組織の生産性や効率も向上するため、可能な限り適材適所な人材配置を実現しましょう。

CHROなど責任者を立てる

人材戦略の策定・運用にあたっては、CHROなどの責任者を立てましょう。人事戦略は責任の所在が不明瞭になりやすく、実行途中で頓挫する可能性があるためです。

人材戦略の策定・運用の全体に責任を持つことで、効果検証や調整の継続的な実行を担保できます。加えて、当該戦略の顔として関係各所との調整や議論を行う人物がいたほうが、一連の戦略をスムーズに進行できるでしょう。

トレンドを押さえた戦略を立てる

定期的な見直しを行い、近年のトレンドを適宜人材戦略に盛り込みましょう。たとえば、近年の大きなトレンドには以下のようなものがあります。
・グローバル人材の活用
・働き方・働く場所の多様化
・ダイバーシティ&インクルージョン
・SDGs
・シニア人材の積極活用

自社のビジネス領域や状況などによって取り入れるべきトレンドは異なりますが、トレンドを適切に取り入れることで以下のようなメリットが発生します。
・人材戦略に対する社員からの理解が得られやすくなる
・社員の働きやすさ・エンゲージメントが向上する
・企業価値が高まり、離職率の低下や採用力の向上が期待できる

優秀な人材ほどこのようなトレンドに対する企業の取り組みに注目する傾向があるため、常に意識しておくことをおすすめします。

  

人材戦略を策定して一貫性のある施策を実行しよう

企業の人的資源の価値を高めるうえで欠かすことのできない人材戦略。

採用・配置・育成・定着・代謝の5つの要素から構成され、各要素の質が経営目標の達成に大きな影響を与えます。より効果的な策定・運用を行うには、タレントマネジメントを活用した適材適所の実現や、社会的に大きなトレンドへの対応が不可欠です。

一方で、労働人口の減少や人手不足が慢性化する昨今において、新たな人材の採用・育成・定着の重要度は増す一方といえるでしょう。

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