あらゆる企業において必要不可欠な人材育成。生産性の向上や人手不足、環境の変化に対応し続けていくためにも、避けては通れない重要な課題です。
しかし、どのように育成していけば良いのかわからなかったり、思うように人材が育たなかったりと、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、人材育成の概要や課題、具体的な方法や進め方などを網羅的に解説します。効果的な人材育成を実現したい方はぜひ参考にしてください。
人材育成とは?
人材育成とは、企業のビジョンや経営目標を実現するために、自社の従業員にスキルの習得や必要なスタンスの獲得を促し、求める人材へと育成することです。
あらゆる会社で従業員一人ひとりの生産性・パフォーマンスの向上が望まれており、人材の階層や目的などに合わせてOff-JT・OJT・メンター制度・自己学習など、さまざまな方法で実施されています。
人材教育・人材開発との違い
人材育成と混同されやすい言葉に、人材教育・人材開発があります。
人材育成は入社・異動・昇進などのタイミングでその階層に必要な知識やスキルを新たに身に付けてもらうことを目的とし、比較的長いスパンで行われます。
一方で、人材教育はその1つの手段として、具体的な知識やスキルを教えることが主な意味です。イメージとしては、人材育成の手段の1つとして、人材教育があると言えます。
また、人材開発は既存の課題解決のために、その人材の潜在能力を開発し、パフォーマンスを向上させることを目的としています。人材教育と同様、人材開発も人材育成の手段の1つとして考えましょう。
違いをまとめると、人材育成は比較的長い期間で総合的に従業員のパフォーマンスを高めるために行われ、人材教育や人材開発は比較的短い期間で特定のスキル・知識に対して行われると整理できます。
会社にとって人材育成が重要な理由
会社にとって人材育成が重要な理由は以下の3点に集約されます。
- 生産性を向上させるため
- 外部環境の変化に対応するため
- 人材不足に対応するため
企業が長期的に成長を続けていくためには、限られたリソースで生産性を高めていく必要があります。しかし、少子高齢化が進む日本においては労働人口も減少の一途を辿っているため、一人ひとりの生産性の向上は避けられない課題となっています。
加えて、日本は少子高齢化・IT化・グローバル化という著しい環境変化の真っ只中にあります。これらに対応しながら生産性を高めていくためには、従業員一人ひとりが環境に適応できる能力やスキルを身に付けながら、パフォーマンスを向上させていく必要があるでしょう。
企業が抱える人材育成の課題
人材育成が重要な課題とわかりつつも、以下3つの課題から思うように捗らない企業が多いのが実情です。
- 人材育成のノウハウが社内にない
- 人手不足で育成に人員を割けない
- 育成するマネジメントスキルのある社員がいない
人材育成のノウハウが社内にない
人材育成のノウハウやマニュアルなどが社内になく、どのように人材育成をすれば良いのかわからないという企業は決して少なくありません。
このような企業は、解決ができない問題に出くわすと中途採用で即戦力となる人材を採用して乗り切ろうとしがちです。解決策として間違いではないものの、既存社員の成長機会が失われ、会社に対するエンゲージメントが低下していき、結果的に離職率が上昇するという悪循環に陥る傾向にあります。
人手不足で育成に人員を割けない
人手不足で人材育成に割ける人的余裕がないという声もよく聞かれます。肌感覚で人材育成の必要性や重要性は感じつつも、それぞれが目の前の仕事に追われて余裕がないのです。
結果的に、人手不足で忙しいから人材育成ができない、人材が育たないからいつまでも忙しい状態が改善しないというジレンマを抱えている組織は珍しくありません。
特に人材育成専門の人員や部署を持たない中小企業では、このような問題が起きやすい傾向にあります。
育成するマネジメントスキルのある社員がいない
社内に育成スキルを持っている社員がいないという企業も数多く存在します。人材育成はただ教えれば良いというものではなく、効率的に行い期待する効果を得るためには、相応の専門スキルが必要です。
また、人材育成に携わったことがない人をアサインすると、思うように業務が進められなかったり、業務量が増加したりしてモチベーションが低下する可能性があります。教える側のコンディションが悪いと、教わる側にとっても悪影響を及ぼしかねません。
人材育成成功のために大切なこと
人材育成を成功させるためには、以下の3点が大切です。
- 人材育成も役割分担を明確にする
- スキルマップで道筋を明確にする
- 組織・マネジメント体制をフラットにしすぎない
01.人材育成も役割分担を明確にする
人材育成は担当者や現場任せにせず、役割分担を明確にすることが大切です。現場の社員は通常業務に支障をきたすわけにはいかないため、負担が増加することで思うように進行できなくなる場合があります。
一部の社員に負担が偏ってしまわないよう、育成担当の人数を増やし、役割分担するなどの配慮をすべきでしょう。組織の状況にもよりますが、カリキュラムや内容に応じて適切な部署やチームからサポート役を確保するのもひとつの方法です。
02.スキルマップで道筋を明確にする
スキルマップを作成し、人材育成の道筋を明確にしましょう。スキルマップでその社員の現状・習熟度・不足しているスキル・最終的に目指す姿などを可視化できるためです。
これにより、教える側は一人ひとりの現状や目標を正確に評価・把握でき、状況に合わせて優先順位や育成方法を検討しやすくなります。また、教わる側も自身のスキルや目標が明確になり、成長実感を得やすくなるなど、双方にメリットがあります。
03.組織・マネジメント体制をフラットにしすぎない
人材育成に取り組む際は、組織・マネジメント体制をフラットにしすぎないことが重要です。教える側と教わる側の立場が対等だったり、距離感が近すぎたりすると期待する効果が得られない可能性があるためです。
本音で話せる関係性は大切ですが、効果的な人材育成を行うためには、適切な距離感を保つ必要があります。たとえば、メンター制度などを活用して業務上の立場とは異なる役割を設けるのもひとつの方法です。
人材育成の具体的な方法
ここからは、人材育成の具体的な方法として以下の4つを紹介します。
- Off-JT研修
- OJT
- メンター制度
- 自己啓発・自己学習
Off-JT研修
Off-JTは「Off The Job Training」の略称であり、現場から離れて行う研修やセミナーを指します。
具体的には、社内研修・社外セミナー・ビジネススクールなどへの参加をはじめ、通信教育やeラーニングなどのオンラインで行われるものも含まれます。
カリキュラムを組んで一定の環境で受講できることから、回数をこなしても内容やクオリティが安定しやすく一定の効果が期待できるメリットがあります。
OJT
OJTは「On The Job Training」の略称であり、現場で行う実際の業務を通じて行う研修・訓練を指します。
業務中に研修・訓練を兼ねるという性質上、細かな手順や操作方法の説明など、実技関連のトレーニングに適した方法であり、受講者の状態に合わせてカスタマイズできる点がメリットです。
一方で、業務内容や時間的余裕、教える人によってクオリティがばらつきやすいため、OJT用のマニュアルやカリキュラムを整備するなどの工夫が必要です。
メンター制度
メンター(mentor)は「指導者・助言者」を意味する言葉で、1人の社員に対して1人のメンターが付き、面談や相談を通して人材のサポート・育成をしていく制度です。
新入社員に先輩社員がメンターとして付くほか、若手社員や新人マネージャーの育成など幅広く活用されています。
本音を打ち明けて相談しやすいように、メンターは利害関係や業務上の直接的な関係のない先輩社員が務めるのが一般的です。
自己啓発・自己学習
自己啓発・自己学習は主体的・自発的に自身のマインドやスキルを高めるために学習することを指します。
本人の意思によって主体的に行う学習のため、ほかの育成手法に比べてより高い学習効果が期待できます。
ただし、自己啓発・自己学習には本人の意思が不可欠なため、自ら進んで学習したいと思えるような状態・環境を作り出すことが企業側の役割であり、これも人材育成における手法の1つと言えるでしょう。
人材育成計画の考え方と運用方法
人材育成計画を立てる際の具体的な考え方と運用方法について、以下3つのステップに分けて解説します。
- 育成目標と目的の設定
- 現状分析に基づく計画と施策の作成
- 人材育成プログラムの実際の設計と運用
01.育成目標と目的の設定
まずは育成目標と人材育成の目的を設定しましょう。現状のレベルをどこまで高めるか、何のためにやるかによってすべきことが変わるためです。
育成目標は従業員に求めるスキルや理想像・将来像を設定し、最終的にどのように企業にメリットをもたらすかを目的に設定しましょう。
人材育成に限った話ではありませんが、先にゴールを設定し、そこから逆算することで実際の施策や具体的なアクションプランが見えてきます。
02.現状分析に基づく計画と施策の作成
続いて、自社の置かれている現状を細かく把握・分析し、計画や施策を作成していきましょう。
分析した現状と育成目標・目的(理想像)とのギャップを確認し、何が不足しているか、欠けているものは何かを特定します。その後、解決すべき課題と取り組む際の優先順位、状況に合った手法などを決めていき、人材育成の計画と施策に反映していきましょう。
03.人材育成プログラムの実際の設計と運用
ここまでに整理してきた情報を元に、実際にどのように育成をしていくか、どのように運用していくかを考慮して、人材育成プログラムの設計を行います。
インプット過多にならないよう、学習効果を高めるためにも、適度にアウトプットの機会を織り交ぜると良いでしょう。
実際の運用のフェーズでは、設計したプログラムが最適であるかどうか、問題なく進行できるかなどを分析しつつ、PDCAを回してブラッシュアップしていくことが重要です。
人材育成のスキルマップの具体例
人材育成のロードマップを可視化する方法として、スキルマップの活用がおすすめです。ここでは以下3つの観点からスキルマップの具体例を紹介します。
- 企業理解・ビジョン共感
- 社会人基礎力
- デジタル化(DX)
企業理解・ビジョン共感
スキルマップに必ず加えておきたいのが企業理解・ビジョンへの共感の項目です。パフォーマンスを向上させたい場合、離職の可能性を下げたい場合など、いずれの場合も会社の方向性や自身の役割に対する理解が大きく影響するためです。
たとえば、以下のような段階が考えられます。
- 自社の存在意義や役割を理解している
- 業務上の言動・行動に自社の価値観やビジョンが反映されている
- 自身の言動・行動が他者に良い影響を与えている
企業理解・ビジョンに対する共感の段階を上げていくためには、あらゆる場面でこれらを思い出し、行動に反映させる仕掛けが必要です。具体的には、企業理解を専門的に扱う社内研修の実施、行動指針などを示したクレドの導入、評価制度への連動などです。
社会人基礎力
具体的な能力やスキルに対する基準として、2006年に経済産業省が提唱した「社会人基礎力」を参考にするのもおすすめです。
社会人基礎力は「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と、これらを形作る12の能力要素から構成されています。これらの要素を参考に項目を設定し、「実行できている・時々実行できている・改善の余地がある」などの段階を設定することで、体系的な評価が可能になります。
社会人基礎力を向上させていくためにも、研修制度の拡充と評価制度への連動が効果的です。研修を通して会社が求めるスキルや人物像に対する理解を促し、期待に沿った行動には正当な評価を与えることで具体的なアクションを誘発できるでしょう。
デジタル化(DX)
変化の激しい昨今において、新たなデジタル技術を積極的に取り入れて変革に貢献するDX人材が注目されています。DX化はITを活用するあらゆる企業で備えておくべき課題のため、スキルマップにも加えておきたい項目のひとつです。
デジタル化の領域でスキルマップを作成する場合、以下のような段階分けが考えられます。
- ツールを使いこなせる・周囲に広められる
- 新たなツールの活用方法を発想・提案できる
- 新たなツールを作り出し、使い方を教えられる
デジタル化に関するスキルを高めるためには、社内研修の拡充やマニュアルの整備が効果的です。既存ツールの使い方は自己解決できる環境を整え、新たなツールの導入や開発にインセンティブを設けるなど、前進し続けられる環境を整備すると良いでしょう。
【階層別】人材育成で育みたいスキルと具体例
人材育成で積極的に育みたいスキルと具体例を、以下2つの階層に分けて紹介します。
- 新入社員
- 中堅社員・管理職(マネジメント)
新入社員
新入社員の育成において重要なことは、周囲と調和し円滑に業務を遂行できる最低限のマナーや考え方、社内外問わず正しい対応ができるマナーなどを身に付けることです。
具体的には以下のようなものが挙げられます。
- ビジネスマナー
- ビジネスマインド
- コミュニケーションスキル
- ビジネス文書の作成方法
- ITスキル
育成方法は会社の規模やリソースなどにもよりますが、Off-JT研修やメンター制度などが適切でしょう。
中堅社員・管理職(マネジメント)
中堅社員・管理職(マネジメント)の育成で育みたいスキルは以下のようなものです。
- チームビルディング・強化
- 後輩・部下の育成
- 経営に関する知識・スキル
中堅以上の社員に求められることは、自身の成果に加えてチームや部署単位で成果を上げる能力・スキルです。会社の規模や階層などにもよりますが、個人のレベルに応じて臨機応変に対応できるOJT、専門知識・スキルを持っている外部講師によるOff-JT研修をベースに、自己啓発・自己学習を組み合わせるのが有効です。
人材育成は目的とゴールを明確に!
人材育成は生産性の向上、人手不足や環境変化への対応策として必要不可欠なファクターです。効果的な人材育成を実現するためには、現状を十分に把握・分析したうえで目的とゴールを明確にすることが大切です。そのうえで、スキルマップを作成し、適切な内容と方法で育成プログラムを構築しましょう。
人材育成はそれ単体で存在するものではなく、企業の方針やビジョンから逆算し、理想とする人材像を設定したうえで、採用から育成まで一貫性を持って計画を立てることが非常に重要です。
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