優秀な人材を集めるために、さまざまな採用方法を模索する中で「厳選採用」が気になっている人もいるのではないでしょうか。厳選採用は、応募者の中から厳格な基準で候補者を絞り込み、優秀な人材のみを採用する手法です。しかし、正しく実施しなければ効果は得られません。

本記事では、厳選採用が注目されている背景や導入するメリット、具体的な手法と取り入れる際に注意すべきポイントを解説します。人材採用の質を高め、組織の競争力を強化したいとお考えの人は、ぜひ最後まで読んでみて下さい。

厳選採用とは?

厳選採用とは、自社にふさわしい人材を獲得するために、厳しい採用基準を設けて行う採用方法です。通常の採用よりも選考基準が高く、候補者の能力や適性を慎重に評価します。厳選採用の特徴は、たとえ採用枠が満たされなくても、基準に達しない候補者は採用しない点です。

厳選採用は、単に空いているポジションを埋めるのではなく、組織の長期的な成功に貢献できる人材を見いだすことに重点を置きます。そのため、即戦力となる人材の確保や、採用後のミスマッチを防ぐ効果があり、人材の質の向上や組織の生産性向上につながります。

厳選採用が取り入れられる背景

厳選採用が取り入れられる背景には、企業が抱える課題が影響しています。

ひとつは日本の雇用環境の問題で、もうひとつは限られたリソースで最大限の成果を上げる必要がある点です。それぞれ、詳しく解説します。

一度採用すれば社員をクビにするのが困難

日本の労働法では、労働者の権利が強く守られています。特に、労働者を解雇するためには正当な理由が必要であり、そのハードルは非常に高いのが現実です。労働契約法第16条では「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。

つまり、能力不足や業績不振だけでは、簡単に解雇することはできないのです。こうした制約があり、企業は採用の段階で慎重にならざるを得ません。そのため、採用段階でミスマッチを防ぐため、厳選された候補者を慎重に選び抜く必要があります。

不況の中で最大限のパフォーマンスを発揮する必要がある

日本の経済環境は、長期にわたる不況やデフレの影響を受けています。このような状況下では、限られた人材で高い生産性を産まなければなりません。

また、法人税率や社会保険料などのコストも高いため、採用した人材には投資に見合う以上の成果を出してもらう必要があります。

そのため、厳選採用を通じて優秀な人材を確保し、最小限のコストで最大限の成果を追求しようとしているのです。また、競争が激化する市場では、即戦力となる人材の確保が企業の成長や生き残りに直結します。したがって厳格な選考基準を設け、候補者のスキルや経験、適性を厳しく評価することが不可欠なのです。

厳選採用を取り入れるメリット

厳選採用は、従来の採用手法とは異なり、より高い基準をクリアした優秀な人材を確保することが目的です。そのため、企業には多くのメリットがあります。中でも代表的なメリットを4つ見ていきましょう。

リスクを軽減し優秀な人材を獲得できる

厳選採用の最大のメリットは、企業にとって優秀な人材を獲得できる点にあります。優秀な人材は生産性が高く組織全体のパフォーマンスを向上させる可能性が高いでしょう。また、優秀な人材は自己管理能力も高いことが多く、解雇の可能性も低くなります。これは、簡単に解雇ができない日本の労働法制下において特に重要です。

育成を最小限にし、即戦力を獲得できる

厳選採用のもうひとつの大きなメリットは、即戦力となる人材を獲得できる点です。厳選された人材は、既に高いスキルと経験を持っているため、入社後すぐに高いパフォーマンスを発揮できます。つまり、育成を最小限に抑えられるのです。

従来の採用では、入社後に長期間の研修や教育が必要な場合が多く、コストや時間がかかるケースも少なくありません。しかし、即戦力の人材は研修コストをかけず、早期に成果を上げることが可能です。例えば、同じ職種で豊富な経験を持つ人材なら、最小限の研修のみですぐに仕事をはじめられるでしょう。

採用のミスマッチを防げる

厳選採用では、通常の採用手法よりも候補者とのすり合わせが綿密に行われるため、採用のミスマッチを防げます。通常の採用では、応募者のスキルや経験が会社の求める条件を満たしていても、実際の業務や企業文化と合わないことも少なくありません。

このように、厳選採用はミスマッチが少ないため、結果的に従業員の定着率が向上し、企業の安定した成長に寄与します。

長期的に人材にかかわる費用を抑えられる

厳選採用によって、長期的に人材にかかる費用を抑えることが可能です。

厳選採用は、基準をクリアしなければ採用しないこともあるため、一見コストパフォーマンスが低いように思えます。しかし、ミスマッチが少なくなることで離職率が低下し、再採用の必要性が減ることで、長期的には採用コストを抑えられるのです。

さらに、優秀な人材のため、高いパフォーマンスを発揮してくれるため、生産性が向上します。

また、研修や育成コストについても削減効果が期待できるでしょう。即戦力となる人材を中途採用することで、初期研修の期間を短縮できるため、研修の頻度も少なくてすみます。

厳選採用で用いられる手法・ポイント

厳選採用は戦略的な手法を用いる必要があります。それぞれの手法には特徴があるため、自社のニーズに応じた方法を選ぶと良いでしょう。ここでは、厳選採用における代表的な手法とそれぞれの特徴について、いくつか紹介します。

募集時点で厳格な基準を定める

厳選採用のポイントは、募集時点で厳格な基準を定める必要があります。厳選採用は、そもそも応募者を初期段階でふるいにかけることが目的です。具体的には、求人票に必要なスキルや経験年数、学歴、資格などを記載することで、応募条件を明確にしましょう。そうすれば、条件に合わない応募者を事前に排除でき、選考の効率化が図れます。

また、単に条件を明記するだけでなく、社風や企業理念も記載することで、より候補者のミスマッチを防げます。ただし、基準を厳しくしすぎると応募者数が極端に減少する可能性があるため、注意が必要です。

大手就職・転職サイトの活用

厳選採用を成功させるためには、1人でも多くの人材にアプローチする必要があります。そのため、母集団はなるべく多いほうが効果的です。そこで、大手就職・転職サイトの活用も効果的な手段のひとつとなります。大手就職・転職サイトは、多くの求職者が登録しているため、候補者が集まりやすいでしょう。

また、転職サイトは高度な検索機能や絞り込み機能が充実しているため、効率的に優秀な人材を見つけ出すことが可能です。さらに、スカウト機能を備えているサイトも多く、よりレベルの高い求職者にも直接アプローチできます。

リファラル採用

リファラル採用とは、社員の紹介を通じて新たな人材を採用する方法です。企業文化や業務内容を熟知した社員が候補者を紹介するため、ミスマッチが少ない特徴があります。また、紹介者が候補者の人柄や能力をよく知っているため、より質の高い人材を獲得できる可能性が高まるでしょう。

さらに、リファラル採用は従来の採用手法と比べてコストが低く抑えられるというメリットもあります。採用広告費や人材紹介会社への手数料が不要となるため、採用コストの削減につながります。

一方で、社員の人脈に依存するため、多様性が失われる可能性がある点がデメリットです。また、紹介者と候補者の関係性によっては、職場の人間関係に影響を与える可能性も考慮しておく必要があるでしょう。

リファラル採用だけに頼らず、他の採用手法と併用することで、バランスの取れた採用活動を行うことをおすすめします。

ダイレクトリクルーティング

ダイレクトリクルーティングとは、企業側が求職者に対して直接アプローチする採用手法です。具体的には、転職希望者がサイトに公開しているプロフィールやスキルを基に、直接コンタクトをとります。ダイレクトリクルーティングの最大のメリットは、受動的な求職者や、現在転職を考えていない潜在層にもアプローチできる点です。

一方で、候補者の選定や連絡に時間と労力がかかる点はデメリットとなるでしょう。特に、多くの候補者にアプローチする場合、通常業務とのバランスが難しくなる可能性があります。ダイレクトリクルーティングを成功させるためには、魅力的なスカウトメッセージの作成などのノウハウが必要です。そのため、採用担当者は運用スキルが求められます。

構造化面接

構造化面接は、あらかじめ定められた評価基準や質問項目に沿って面接を進める手法です。

面接官の主観や偏見を排除し、一貫した基準で候補者を評価できるのが大きなメリットでしょう。全ての候補者に同じ質問を同じ順序で行うため、公平な比較が可能です。また、誰でも一定の基準で評価できるため、バラつきが少なく選考の精度が高まるメリットもあります。

一方で、質問の内容が決まっているため、候補者の本音を引き出しにくい点はデメリットです。また候補者に冷たい印象を与える可能性もあるでしょう。構造化面接を成功させるためには、適切な質問項目と評価基準の設定が重要です。したがって、候補者の能力を正確に測る質問を考える必要があります。

厳選採用を取り入れる際の注意点

厳選採用は多くのメリットがある一方で、いくつか注意点も存在します。より効果的な採用活動を行うためには、これらの点を理解しておくことが不可欠です。ここでは、厳選採用を取り入れる際に考慮すべきポイントをいくつか取り上げます。

そもそも応募者が優秀でない可能性も

厳選採用において応募者へのアプローチ方法が間違っていれば、そもそも母集団自体が優秀でない人材で構成される危険性があるため注意が必要です。例えば、募集方法や求人広告の内容が曖昧だったり、求めるスキルや経験のレベルが高すぎたりすると、優秀な応募者が集まりにくくなります。

また、求人情報の掲載媒体が適切でない場合も優秀な人材の目に留まりにくいでしょう。

このような事態を避けるには、まず求人情報の魅力を高める必要があります。具体的には、仕事の内容や企業の魅力、キャリアパスなどを明確に記載しましょう。さらに、ターゲットとする人材が利用する媒体を適切に選択することも重要です。

会社に新しいアイデアを取り入れられない

厳選採用では、特定のスキルや経験を持った人材に焦点を当てることが多いため、同じような人材ばかりが採用される傾向があります。その結果、会社に新しいアイデアや視点を取り入れることが難しくなる点はデメリットです。

この問題に対処するためには、採用基準に多様性の要素を取り入れると良いでしょう。例えば、スキルや経験だけでなく、異なる背景や価値観を持つ人材を積極的に評価する基準を設けると効果的です。また、採用側の目線を変えることも効果があります。人事だけでなく、現場の責任者に同席してもらうことでも多面的な評価が可能です。

人手不足や業務過多に悩む企業には向かない

厳選採用は、優秀な人材を確保するために有効な採用方法ですが、全ての企業に適しているわけではありません。特に、慢性的な人手不足や業務過多に悩む企業が厳選採用を導入すると、採用数が少なくなり企業のパフォーマンスを下げてしまいます。

人手不足の企業は、まず人員の確保を優先し、その後段階的に採用基準を引き上げていく方法をとりましょう。一例として、派遣社員や契約社員を活用し、業務の平準化を図りながら、徐々に正社員の採用基準を高めていく方法があります。

また、業務の効率化やシステム化を進めることで、少ない人員でも高いパフォーマンスを発揮できる体制を整えることも効果的です。

自社に採用ノウハウが蓄積しない

自社に採用ノウハウが蓄積しにくいのも厳選採用の注意点のひとつです。厳選採用は主に客観的な数値や基準に基づいて応募者を評価するため、採用に幅や柔軟性が生まれにくい傾向があります。そのため、採用担当者がさまざまなタイプの候補者を評価する経験を積みにくく、採用ノウハウがいつまでも自社に蓄積しません。

この問題を解決するためには、採用活動の一部に柔軟性を持たせると良いでしょう。例えば、厳格な基準による選考と並行してポテンシャル採用枠を設けるなど、複数の採用方法を組み合わせることも効果的です。

まとめ

厳選採用は優秀な人材を確保し、長期的なコスト削減や業務の効率化につながる有効な採用手法です。しかし、適切な方法で実施しなければ、応募者の質が低下する恐れや、多様性の欠如による新しいアイデアの導入が難しくなる可能性もあります。

また、常に優れた人材を見つけられるわけではないため、人手不足の企業には向いていません。そのため、厳選採用を取り入れる際には、自社の状況に合わせたプロセスの設計が不可欠です。

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