コンピテンシーテスト(診断)は、人材管理と採用をサポートする重要なツールです。採用のミスマッチを防ぎ、組織を改善するため、コンピテンシーテストに関心を寄せている企業も多いことでしょう。
この記事では、コンピテンシーテストのメリットや特徴、問題内容例や選び方のポイントまで、網羅的に解説します。コンピテンシーテストの導入を考えている企業にとって、さまざまな選択肢を把握し、最適な方向性を見極める一助としてください。
コンピテンシーテスト(診断)とは
コンピテンシー(competency)とは、英語で「能力」「適性」「資格」を意味する言葉です。
HR領域では、「高い成果を達成している人に共通する行動特性」を指す人事用語として使われています。
コンピテンシーテストは、個人の思考や行動特性を分析し、どのような職務に適しているのか、またどのような能力を持っているのかを明らかにする診断です。コンピテンシーテストは、個人が成果を得るまでのプロセスを理解するための適性検査としても利用されます。
コンピテンシーテストを実施する意味
コンピテンシーテストは、社内のハイパフォーマーの特徴を明らかにする有効なツールです。テストを実施することで、個人の能力や適性を客観的に評価でき、その結果は評価、採用、配置、教育など幅広く活用されます。
特に、高い成果をもたらす社員の行動特性や思考パターンを理解することは、人材の採用や育成において、人事戦略を効果的に進める要因となります。また、人材の強みや弱みを把握し、適切な教育プログラムも検討できます。コンピテンシーテストは組織の成長と人材活用において重要なツールです。
コンピテンシーテストの試験形式
コンピテンシーテストには、Webテスト、テストセンター、ペーパーテストの3つの試験形式があります。Webテストは、インターネット環境があれば時間や場所の制約を受けずに実施可能です。テストセンターでの実施は、外部機関で行われるため不正防止となり、テストの信頼性が上がります。ペーパーテストは、企業が指定した特定の場所、時間で行います。
それぞれの試験形式には、メリット・デメリットがあるため、スケジュールやコストを踏まえて、自社に合ったものを選択しましょう。
コンピテンシーの5段階評価
コンピテンシーを設定する際は、社員の行動を5段階のレベルで分類し、評価基準を設定します。主体性を例にとると、各レベルは以下の通りに分けられます。
- 受動行動 (レベル1): 主体性が低く、受け身状態が多い社員。上司からの指示がなければ行動することはありません。
- 通常行動 (レベル2):必要なタスクを最低限実行できますが、自主的な行動はまだ少ない状態です。
- 能動・主体行動 (レベル3):自ら提案をすることは少ないですが、自主的に判断し行動できる社員です。
- 創造・課題解決行動 (レベル4):高い主体性を示し、自ら積極的にタスクを計画し実行する社員。新しいアイデアや改善提案も行います。
- パラダイム変換行動 (レベル5):非常に高い主体性を持ち、リーダーシップを発揮する社員。他者を巻き込み、好循環を生み出します。
コンピテンシーテストで評価する項目の例
コンピテンシーテストでは、個人の能力や適性を評価するために、さまざまな項目が設定されています。例えば、以下のような評価項目があげられます。
- 主体性・能動性
- 目標達成意欲
- 指示・統率力・リーダーシップ
- 素直さ、チャレンジ精神
- 組織力、チームワーク
- 戦略的思考力
- 業務遂行能力
- 情報収集力、情報整理力
- 第一印象、プレゼンテーションスキル
- 自己認識能力
それぞれの項目が示す能力やビジネスで必要とされる場面、評価記入例文については、こちらの記事を参考にしてください。
コンピテンシーの評価例文|書き方や項目設定・面接への活用法を解説
【例題】コンピテンシーテストで出題される問題内容
コンピテンシーテストでは、具体的にどのような問題内容が出題されるのでしょうか。ここでは、一例として「情報収集力」「課題発見力」を評価する問題を紹介します。
「情報収集力」を評価する例題
問題文:あなたは新製品の市場調査を行うために、以下のA~Dの情報収集方法を検討しています。それぞれの方法が適しているシーンを考慮し、最も効果的な情報収集方法の組み合わせを、後の①~⑤の中から1つ選んでください。
A. オンラインアンケートで市場のニーズを調査する
B. 競合他社の製品を購入し、比較分析を行う
C. SNSでのお客様のレビューや意見を収集する
D. 直接インタビューで市場の反応を把握する
選択肢:
① AとB
② AとC
③ AとD
④ BとC
⑤ BとD
「課題発見力」を評価する例題
問題文:あなたのチームは新しいプロジェクトを進行中です。しかし、進捗が予定通りに進んでいないことが明らかになりました。あなたは何をしますか?
選択肢:
① スケジュールと実際の進捗を比較し、遅れている部分を特定する
② チームミーティングを開催し、メンバーから進捗遅れの原因や問題点を共有してもらう
③ 過去の類似プロジェクトのデータと比較分析し、遅れの原因を探る
④ 他の部署や外部の専門家に現状を共有し、意見やアドバイスを求める
⑤ 管理計画を再確認し、遅れの原因や新たな問題点を特定する
コンピテンシーテストを導入するメリット
コンピテンシーテストの導入には以下のようなメリットがあります。
- 人材の適性や特性、マッチ度が把握しやすくなる
- 組織のHR課題が把握しやすくなる
- 採用・人事評価の効率が上がる
ここでは、それぞれのメリットの詳細を解説します。
人材の適性や特性、マッチ度が把握しやすくなる
コンピテンシーテストの導入は、人材の適性や特性を明確に把握する助けとなります。
企業は、コンピテンシーテストの結果から、社員が自社の理念や求めるスキルにどれだけマッチしているのかを客観的に評価できるようになります。
また、どの部署にどのような社員を配属すれば最大のパフォーマンスが得られるかを判断できるため、組織変更や人材配置の最適化を検討する材料として活用できるでしょう。これにより、組織全体の効率と生産性向上に寄与します。
組織のHR課題が把握しやすくなる
コンピテンシーテストの導入は、組織のHR課題の解決にも役立ちます。コンピテンシーテストの結果は、人事戦略の見直しや改善を図るための貴重なデータとなります。
「適性のある人材を配属できていない」「組織内の人材の特性に偏りがある」など、分析することで組織のHR課題が把握しやすくなるでしょう。コンピテンシーテストは、人員計画の精度を高め、組織の継続的な成長をサポートします。
採用・人事評価の効率が上がる
コンピテンシーテストは、採用や人事評価に活用できます。テストの結果を自社が求める人材のコンピテンシーと比較することで、採用の合否をより客観的に判断できるでしょう。
また、人事評価では、ハイパフォーマーと比較した際の働きや将来の活躍見込みなどの可視化ができます。これにより、考課者による評価のばらつきを防ぎ、人事評価の効率化に大いに貢献します。さらに、採用計画や人事評価制度の改善など、さまざまなHR戦略への活用が可能です。
コンピテンシーテストのデメリット・課題
コンピテンシーテストの導入には、デメリットや課題もあります。
- 自己評価・申告のため不正確さが発生しうる
- 診断結果から評価基準を設定するのが難しい
- 診断結果に行動や思考がアンカリングされうる
ここでは、3つのデメリット・課題について、詳細を解説します。
自己評価・申告のため不正確さが発生しうる
コンピテンシーテストは、受験者の自己評価や申告に依存する側面があるため、過大評価や過小評価が発生し得ます。この場合、評価結果の信頼性が低下し、人材の真の能力や適性が正確に把握できなくなる可能性があります。
不正確な評価は、採用や人材配置のミスマッチを引き起こしてしまうため対策が必要です。コンピテンシーテストの結果のみを判断基準にせず、総合的な評価を心がけましょう。
診断結果から評価基準を設定するのが難しい
正確な診断結果を得たとしても、評価基準の設定は容易なものではありません。企業の実情や事業の目指す方向性を反映させた評価基準を策定するには、慎重な検討が不可欠です。
2段落で紹介した「コンピテンシーの5段階評価」を参考にして、ステップ分けを行いましょう。評価基準の設定は組織の目標や戦略と連携することが重要です。また、社員からも納得感を得られる評価基準とするためにも、十分な精査と準備が求められます。
診断結果に行動や思考がアンカリングされうる
コンピテンシーテストを受験することは、社員本人にとっても自身の能力や特性を知る良い機会です。ただし、診断結果によって行動や思考が無意識に影響を受ける可能性があるため、注意が必要です。
診断結果に過度に依存することは、行動や思考の枠を制限し、社員の成長や組織の多様性を阻む要因となってしまいます。社員本人だけでなく、評価者も先入観を持たないように心がけ、コンピテンシーテストの目的や解釈について正しく理解できるよう、人事から適切なフォローを行うことが重要です。
コンピテンシーテストで使える適性診断ツール【無料も】
コンピテンシーテストで使える適性診断ツールは、有料・無料含めてさまざまな種類があります。
- ストレングスファインダー
- 16Personalities
- マルコポーロ
ここでは、代表的な3つの適性診断ツールを紹介します。
ストレングスファインダー
ストレングスファインダーは、米国ギャラップ社が開発したオンライン才能診断ツールです。177個の質問に答えることで、自分の中で最も特徴的な5つの強みを見つけることができます。
ストレングスファインダーでは、達成欲・共感性・分析志向など、才能を34の資質に分類しています。個人が何を得意とし、どうやってそれを活かせるかを理解するのに役立ちます。また、強みを伸ばし、弱点に囚われないことの重要性が説かれているのも特徴です。
16Personalities
16Personalitiesは、能力を測るのではなく、ものの見方や判断、外界との関わり方など、個人の本質や核心を理解することを目指す性格診断テストです。テストは無料で利用でき、約12分で完了します。93のYes・No質問に答えることで、16の性格タイプに分類されます。
個人の本質を深く理解することで、より適した業務や環境を見つける手助けになるため、組織にとっても有益な診断ツールです。
マルコポーロ
マルコポーロは心理統計学と科学的分析手法に基づいて作られており、受検者の深層心理(ヒューマンコア)を30項目でわかりやすく可視化できます。
採用に活かしたい場合は、結果を「面接シート」としてアウトプットしてどのように面接を進めるのがよいか、わかるようになっています。また、結果の8割が特性論であるため、100人いれば100パターンのデータが確認でき、個人ごとの細かい違いを確認できます。類型論に基づくデータにおいては、主な特性での部類分けや相性の分析が可能です。
また、回答操作の除去が可能なため、大げさに回答をしていないかどうか、嘘をついていないかどうかなど、面接では分かりづらい部分も見抜くことができます。
回答も簡単で個人差はありますが20分から30分ほどでできるので、導入のハードルも高くありません。
適切なコンピテンシーテストの選び方
コンピテンシーテストは、自社に合った適切なツールを選定することで効果が大幅に向上します。ここでは、以下の内容に焦点を当て、コンピテンシーテストの選び方を解説します。
- 導入目的や自社の想定課題を明確化する
- 企業の規模や支店・支社など受験・分析・運用全体を考慮する
導入目的や自社の想定課題を明確化する
まず、コンピテンシーテストを導入する目的と、想定される課題を明確化することが重要です。テストでは、さまざまな特性を診断するため、多くの診断項目があっても、自社のニーズに適した項目がなければ効果は得られません。
また、採用活動や人員配置、評価、教育など、コンピテンシーを活用する目的によっても、重視する項目が異なります。導入の目的と課題を明確にしておくことで、自社で必要とする機能や評価項目を把握し、適切なツールを選ぶ基準となります。
企業の規模や支店・支社など受験・分析・運用全体を考慮する
企業の規模や支店・支社数など、受験環境も大切です。コンピテンシーテストの受験対象者が少ない場合は無料のツールでも集計は容易ですが、対象者が増えるほど作業は複雑になり、それだけ多くの時間も必要になります。
特に大企業やコンピテンシーに力を入れたい企業の場合は、分析機能が充実している有料のツールを検討するのも良い選択肢です。Webテスト、テストセンター、ペーパーテストなど、受験形式もどの方法が自社の体制にマッチするかしっかり検討しましょう。受験・分析・運用全体を考慮しての導入がおすすめです。
コンピテンシーテストに関するよくある質問
最後に、コンピテンシーテスト導入にあたり、多くの企業が抱える疑問を紹介します。ここでは、以下の2つのよくある質問に回答します。
- 受験者が対策するリスクはありますか?
- 導入する際は何から始めればいいですか?
受験者が対策するリスクはありますか?
無料で利用できるコンピテンシーテストや診断ツールは、受験者からも簡単にアクセス可能なため、対策できる可能性があります。この場合、受験者の真の能力や特性よりも、対策を施したテスト結果が反映されてしまうことも考えられます。
そこで、できるだけ一般に公開されていないツールを選択することを推奨します。公開されていないツールを利用することで、テスト結果の信頼性を保つことができ、より正確な人材の評価の実施が可能となるでしょう。
導入する際は何から始めればいいですか?
コンピテンシーテストを導入する際は、まず自社の現状と課題を分析することから始めましょう。もし現状や課題の認識に自信がない場合は、第三者のプロの目線を入れることも良い選択です。
コンピテンシーテストの適切な実施は、組織の人材戦略を効果的に進めるための重要な一歩となります。この大切なステップを確実に踏むためにも、初期の現状認識と課題分析に十分な時間を投資し、準備をしっかりと行いましょう。
自社に適切なコンピテンシーテストを実施しよう
コンピテンシーテストは、企業の人材戦略を強化し、組織の成長を促進する強力な手段です。適切なコンピテンシーテストを導入することで、個人の思考や行動特性を明らかにし、評価、採用、配置、教育にも活用できます。多くの選択肢から、自社の目的とニーズに最も適したツールを選びましょう。
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