人事評価は、組織の人材育成と業績向上に直結する重要なテーマです。
公正で納得感のある評価を行うために、近年注目されているのがコンピテンシー評価です。
しかし、実際に導入するには、どのような準備が必要なのか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

この記事では、コンピテンシー評価項目の設定方法、評価例文、設計時の注意点などを具体的に解説します。
適切な評価項目と評価基準を設計することで、より効果的な人事評価・採用評価を実現できるでしょう。

コンピテンシー評価とは

コンピテンシー評価は、高い成果を達成している人の行動特性を基準にして各社員を評価する人事評価方法です。
この評価方法の導入は、行動に焦点を当てることで、より公平かつ効率的な人事評価を実現する手法として、近年注目されています。

仕事で優れたパフォーマンスを発揮する人の共通の行動特性をモデル化し、その行動を評価することで、人材の適材適所配置や採用活動、マネジメントにも活用可能です。
コンピテンシー評価は、従来と違った新しい人事評価のアプローチとして、導入する企業が増加しています。

 

コンピテンシーの5つの段階

コンピテンシー評価を導入する際は、社員の行動を5段階のレベルで分類し、評価基準を設定しましょう。
各レベルは以下の通りです。

【受動行動 (レベル1)】
上司からの指示がないと行動しない、受け身状態の社員です。主体的な行動は見られません。

【通常行動 (レベル2)】
必要なタスクを最低限実行できるレベルの社員です。基本的な業務をミスなく遂行できますが、それ以上の意欲や工夫は見られません。

【能動・主体行動 (レベル3)】
目的を設定し、自主的に判断し行動できる社員です。成果向上に向けた行動が見られます。

【創造・課題解決行動 (レベル4)】
現状を改善し、課題を発見・解決できる社員です。自らアイディアの創出や提案を行います。

【パラダイム変換行動 (レベル5)】
固定観念に縛られず、新しい発想で0から1を生み出す能力があります。リーダーシップを発揮して好循環を生み出す社員です。

 

コンピテンシー設定項目と評価記入例文

コンピテンシー評価には、評価項目の設定が重要です。ここでは、以下の10項目を解説します。

  • 主体性・能動性
  • 目標達成意欲
  • 指示・統率力・リーダーシップ
  • 素直さ、チャレンジ精神
  • 組織力、チームワーク
  • 戦略的思考力
  • 業務遂行能力
  • 情報収集力、情報整理力
  • 第一印象、プレゼンテーションスキル
  • 自己認識能力

それぞれが指す力とビジネスで必要とされる場面、評価記入例文を見ていきましょう。

主体性・能動性

主体性・能動性は、自らの意志で思考し行動する力を指します。業務や課題に進んで取り組む姿勢や、自ら考え判断できる能力は、ビジネスの現場で非常に重要です。特に新しいプロジェクトの推進や課題解決の際には、主体性・能動性が求められることが多いです。

どの職種、役職でも求められるコンピテンシーですが、新入社員が次の等級へ昇格する際に見るべきポイントとしてもおすすめです。自分自身で目標を設定し、積極的に行動する姿勢を昇格の目安とするなど、活用できます。

【項目定義例】
「機会を捉えて、行動に移す。自ら考え、チームの動きを作る。」

【評価記入例】
レベル3:定期的に自身のスキルアップを図り、効率改善に向けた提案を行っている
レベル4:解決策の提案と実行でチームの改善に貢献している

目標達成意欲

目標達成意欲は、チームや自らの目標に対してどれだけ強くコミットし、それを達成するために努力する意欲を持っているかを示します。目標達成意欲が高い人は、困難に対してもひるまず前向きに取り組み、何事も実行を重視して行動します。

ビジネスの現場では、目標達成意欲は、プロジェクトの成功や業務の効率向上、組織全体の成果達成に直結します。この能力は、反対意見に直面したときや厳しい期限内で作業を完了する必要がある場合に、特に重要となります。

【項目定義例】
「達成にこだわり、あきらめず、可能性を追求しあらゆる手段を尽くす。」

【評価記入例】
レベル1:目標に対する意識が低く、自主的な動きが見られない
レベル2:基本的な目標は理解しているが、追加の努力を示さない

指示・統率力・リーダーシップ

指示・統率力・リーダーシップは、チームや組織を適切にリードし、目標達成に向けて導く能力を指します。ビジネスの現場では、プロジェクトの進行管理、チームメンバーの指導とモチベーション向上、さらに戦略的な意思決定でこれらの能力が必要とされます。

強いリーダーシップは、チームの士気を高め、組織の目標達成を促進し、変化の時期においても安定した指導を提供できます。これらの能力は、マネージャーやリーダーのポジションにおいて特に求められ、組織の成功にとって不可欠です。

【項目定義例】
「メンバーを支援し、フィードバックを適切に行いながら組織や人材を引っ張る。」

【評価記入例】
レベル4:状況に応じて適切な意思決定を行い、チームのモチベーションを高める
レベル5:顕著な統率力と戦略的な視野を持ち、チームや組織を目標達成に導く

素直さ、チャレンジ精神

素直さ、チャレンジ精神は、新しいアイデアを柔軟に受け入れ、変化に対応して積極的に行動する姿勢を示します。これらの能力は、新しいプロジェクトや技術の採用、フィードバックの受け入れと改善、難しい問題解決を試みる際など、ビジネスの現場で非常に重要です。

素直さは、他者の意見を受け入れ、自身の知識や技術を向上させる基盤となります。チャレンジ精神は、困難な状況でも積極的に行動し、新しい可能性を探求する原動力となります。

【項目定義例】
「順応できる。アイデアが出されると前向きに対処する。臨機応変に立ち回る。」

【評価記入例】
レベル3:フィードバックを受け入れ、小規模な新しい挑戦に取り組む
レベル4:さまざまな意見を柔軟に活用し、困難な挑戦でも積極的に行動する

組織力、チームワーク

組織力、チームワークは、他者と効果的に連携し、共同で目標を達成する能力を指します。ビジネスの現場では、チーム作業、プロジェクトの進行や情報共有、コミュニケーションの改善において必要なコンピテンシーです。

組織力は、社員が一丸となることで発揮される実行力を示します。チームワークは、チームの方針に沿った行動を行い、情報を適切に共有する団結力です。ベテラン、新入社員に関わらず、組織に属する社員は皆必要とされる能力です。

【項目定義例】
「チームメンバーと協調し、他者への協力を惜しまない。」

【評価記入例】
レベル1:チーム内での協力が低く、他者との連携が困難。
レベル2:基本的なチームワークは示せるが、積極的な協力は見られない。

戦略的思考力

戦略的思考力は、長期的な視点を持ち、総合的な情報分析に基づいて意思決定を行い、組織の目標達成に向けて方向を定める力を指します。特に経営陣に近いマネージャーやリーダーには不可欠な能力です。

ビジネスの現場では、市場の変動、競合の動向、社内外の状況を考慮して、ビジョンに向かう戦略を策定し、実行する際にこの能力が求められます。戦略的思考力は、組織が競争力を保ち、持続可能な成長を達成するために必要です。

【項目定義例】
「組織の向かう方向を明らかにする。戦略を具体化し、実行の責任を負う。」

【評価記入例】
レベル3:一定の戦略的思考力を示し、長期的な視点で問題解決や計画を行える。
レベル5:組織全体の戦略設計と実行に大きく貢献し、新たな価値を創出できる。

業務遂行能力

業務遂行能力は、与えられたタスクやプロジェクトを効率的かつ効果的に遂行する力を指します。この能力は、時間管理、優先順位の設定、資源の適切な配分、そして問題解決スキルを含みます。

ビジネスでは、日々の業務をスムーズに進め、目標を達成するために業務遂行能力が必要とされます。新入社員の内からこのコンピテンシーを身に着けさせるよう、評価に組み込むのがおすすめです。業務遂行能力が高くなると、生産性向上や効率化にもつながります。

【項目定義例】
「業務のプロセスを正確に理解し、安定して運営する。約束・期限を守る。」

【評価記入例】
レベル1:基本的なタスクの遂行が困難で、助けが必要。
レベル2:簡単なタスクは自立して遂行できるが、複雑なタスクには支援が必要。

情報収集力、情報整理力

情報収集力、情報整理力は、必要な情報を効率的に見つけ、整理し、活用する能力を指します。情報化社会の現代、さまざまな情報の中から、業務やプロジェクトに必要な情報を迅速に取得し、わかりやすく整理する力がビジネスにおいて必須です。

情報収集力は、正確かつタイムリーに関連情報を多方面から入手するスキルが必要です。また、情報整理力には、収集した情報を分析し、客観的に整理し、簡潔に伝える力を含んでいます。これらの能力は、意思決定の場面でも重宝され、組織の競争力を維持するために不可欠です。

【項目定義例】
「多くの情報ソースからの情報をまとめ、客観的に事実を捉える。」

【評価記入例】
レベル4:効率的に情報を収集・整理し、深い分析を提供できる。情報の精度と信頼性を確保する。
レベル5:絶えず新しい情報源を探求し、高度な分析と情報整理を行い、戦略的意思決定に貢献する。

第一印象、プレゼンテーションスキル

第一印象、プレゼンテーションスキルは、ビジネスシーンでの人間関係とコミュニケーション能力を測る重要な指標です。第一印象は、他者に与える最初の印象です。プレゼンテーションスキルは、聞き手が求めることを理解しながら、自分の考えや提案をわかりやすく、はっきりと、ポイントをついて効果的に伝える力です。

これらの能力は、新しいクライアントとの関係構築、コンペティションやプロジェクトの提案、チーム内でのコミュニケーション向上など、ビジネスの多くの側面で求められます。

【項目定義例】
「1対1でも、多くの聴衆を相手にした場合でも、印象良く聞き手の理解と共感を得る。」

【評価記入例】
レベル3:良好な第一印象を与え、基本的なプレゼンテーションを行える。
レベル5:卓越したプレゼンテーションスキルと第一印象で、人々を劇的に影響させ、説得できる。

自己認識能力

自己認識能力は、自身の強み、弱み、感情、価値観を客観的に理解し、行動する能力を指します。ビジネスにおいてもこの能力は重要で、自らの行動が他者や環境にどのように影響を及ぼすかを認識し、社会人として適切に行動する基盤を築くことに貢献します。

自身を客観的に見ることで、過大評価や過小評価を避け、他者からのフィードバックを素直に受け入れられるでしょう。他者に対する思いやりや誠実さを持ち、自己改善に努める契機ともなります。ビジネスの基本マナーは、全ての社員にとって必要な能力です。

【項目定義例】
「自分を正確に認識する。ビジネスにふさわしい立ち居振る舞いを身につけている。」

【評価記入例】
レベル1:自分の強みや弱みを理解していない。フィードバックに対して抵抗を示す。
レベル2:自分の基本的な強みと弱みを知っているが、それに対する具体的な改善行動を取らない。

 

コンピテンシー評価設計の際の注意点

コンピテンシー評価を設計する際には、留意するべきポイントがあります。

  • 長期間の運用を見据える
  • 定期的な見直しを実施
  • 客観的な評価を強調

ここでは、3つの注意点について解説します。

長期間の運用を見据える

コンピテンシー評価を設計する際には、長期的な運用を視野に入れることが重要です。あまりに項目を細かく設定しすぎると、評価過程が煩雑で、運用が困難になる可能性があります。実効性を追求し、できる限りシンプルな評価設計を心がけることがおすすめです。

また、なぜこのコンピテンシー項目を設定したのか、理由や背景も記録しておきましょう。明確に記録しておくことで、後々の見直しや改善に役立ちます。

定期的な見直しを実施

事業の状況や経営方針の変化に伴い、企業で求められる能力も変動します。変化に対応するためには、コンピテンシー評価を定期的に見直すことが必要です。評価体系が常に最適な状態を保てるよう努めましょう。

見直しの際には、新たなビジネスのニーズや組織の目標達成に向けた能力の要件を再確認します。それらを基にして、適切な評価項目や基準を設定し、評価体系を最適化することが可能となります。

客観的な評価を強調

コンピテンシー評価では、自己評価と他者からの評価の両方を収集する場合があります。この場合、主観的な評価が入り込みやすい自己評価よりも、他者からの客観的な評価を重視することをおすすめします。

他者からの評価に重きを置くことで、より公正かつ正確な評価が可能となり、組織全体の人材育成とパフォーマンス向上に資することとなります。他者からの評価によって、その人の強みと改善点が明らかになり、成長を促進する貴重な機会となるでしょう。

 

コンピテンシー例文を参考に運用できる項目・仕組みを設計しよう

コンピテンシー評価は、ハイパフォーマンスを生み出す社員の行動特性を基にした、まったく新しい人事評価の手法です。自社に合った適切な評価項目を設計することで、コンピテンシー面接など採用活動や人員配置にも活用できます。この記事で紹介したコンピテンシー例文を参考に、自社に最適な評価項目・仕組みを設計しましょう。

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