コンピテンシーモデルという言葉は知りつつも、「具体的な内容は?」「どう作ってどのように使えばいい?」などと疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。

この記事ではコンピテンシーモデルの意味やその種類、活用方法について詳しく解説します。また、実際の作り方や他社での作成事例、導入事例もあわせて紹介します。

自社でもコンピテンシーモデルを活用したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

コンピテンシーモデルとは

コンピテンシーモデルとは、自社において高い成果を挙げている社員(ハイパフォーマー)の行動特性をもとに作成する理想の社員像のことです。

「職務において高い業績を残す人は、学歴や知能とは関係なく、行動にいくつかの共通点がある」という1970年代のアメリカで芽生えた概念に基づいたものです。コンピテンシーモデルでは、潜在的に持つ能力や知能ではなく、職務上高い成果に結びついた思考や行動が重視されます。

コンピテンシーの意味と定義

コンピテンシー(competency)は「能力」「力量」と訳されます。

コンピテンシーモデルにおける「コンピテンシー」とは、職務において高い業績を出す人の行動特性を意味します。高い成果を出すハイパフォーマーが、普段どのように考え、どのように行動しているのかといった思考や行動を分析・言語化したものといえるでしょう。

なお、ハイパフォーマーに期待される成果は担当する職種や役割によって異なるため、一般的に、コンピテンシーも職種や役割ごとに異なる点に注意が必要です。

看護管理者や心理士の行動モデルでも使われる

コンピテンシーモデルは、看護管理者や心理士などの専門職の行動モデルとしても利用されています。

看護管理者とは、病院内の看護部門や看護の現場をマネジメントする人のことです。主任から看護師長までの職位ごとにコンピテンシーレベルを分け、評価基準としてコンピテンシーモデルを活用するケースなどが見られます。

また、日本公認心理師協会では、心理士の価値観に関する「基盤コンピテンシー」や、心理士の専門技能に関する「機能コンピテンシー」を定め、心理士の専門性の向上に役立てています。

 

コンピテンシーモデルの3つの種類

コンピテンシーモデルには大きく分けて「実在型モデル」「理想型モデル」「ハイブリッド型モデル」の3つの種類があります。以下ではそれぞれの特徴について詳しく解説します。

実在型モデル

実在型モデルとは、実際に高い成果を出し活躍している社員にインタビューをしたり行動を分析したりして構築するコンピテンシーモデルです。実在の社員をモデルにするため、現実に即したモデルの設計ができます。

実現型モデルの場合、現実的で目標にしやすく、他の社員の納得感を得られやすいというメリットがあります。注意点として、ハイパフォーマーの行動特性のうち、再現性に欠ける行動特性については、コンピテンシーモデルに盛り込めないという点が挙げられます。

理想型モデル

理想型モデルは、企業が求める理想の人材像をもとに策定するコンピテンシーモデルのことです。企業の経営方針や事業戦略などから、必要な社員の能力や価値観を分析しモデルに落とし込んでいきます。

メリットは、社内にモデルとなるハイパフォーマーがいない場合でもコンピテンシーモデルを策定できるという点です。デメリットは、理想を追うあまり、現実離れしたモデルを作ってしまう傾向があることです。現実離れをしたモデルを作ると、採用や人事評価に活用しようとしても評価に値する対象者がいないなど、使えないモデルになってしまうため注意しましょう。

ハイブリッド型モデル

ハイブリッド型モデルとは、実在型モデルと理想型モデルを組み合わせて策定したコンピテンシーモデルのことです。

実在型で作ることにより現実に即したモデルが策定できるとともに、理想型を組み合わせることで、まだ実践されていない部分を補足することができます。

ハイパフォーマーの場合、実在型だと実践した要素ばかりのため向上する余地がありませんが、ハイブリッド型だとさらに上を目指すことができます。ハイブリッド型はあらゆるレベルの社員に成長の余地を与えるモデルといえるでしょう。

 

コンピテンシーモデルの活用方法

コンピテンシーモデルは下記の3つの場面で活用することができます。

  • 採用面接の評価
  • 社内の人事評価
  • 人材育成方針の策定

具体的な活用方法は次の通りです。

採用面接の評価

コンピテンシーモデルは採用面接での評価に活用できます。

優秀な人材の定義は企業によって異なるため、どんなに高学歴や立派な職歴の候補者であっても、自社にとっての優秀な人材になるとは限りません。

自社のコンピテンシーモデルと候補者とを照らし合わせることで、採用のミスマッチを防ぎ、最適な人材を確保することができます。

コンピテンシーモデルで高い評価を得られる応募者は自社で高いパフォーマンスをあげる可能性の高い人材といえるでしょう。

社内の人事評価

コンピテンシーモデルは社内の人事評価に活用することもできます。

社内の人事評価の項目や基準にコンピテンシーモデルを盛り込むと、評価基準が現実に即した明確で具体的なものとなります。

従来の職能資格制度による評価では評価基準があいまいなため、社員から不信感や不満を抱かれた企業も少なくないでしょう。その点、コンピテンシーによる評価基準は、現場にいる社員にも納得感のあるリアルな基準のため、受け入れられやすいといえます。

会社にとっても明確な基準で社員を評価しやすくなり、社員にとっても何をすれば評価されるかがよくわかり、モチベーションを維持しやすいといえるでしょう。

人材育成方針の策定

コンピテンシーモデルは、人材育成の方針や目標、育成ステップを決める際にも活用できます。

コンピテンシーモデルを策定することで、自社で成果を上げるために強化すべき行動特性が明らかになります。この強化すべき行動特性を人材育成の方針として掲げることで、曖昧な指導でなく明確な教育や指導ができるでしょう。

また社内にどのようなコンピテンシーを持った人材がいるか把握することで、自社に足りないコンピテンシーが把握できます。そうした自社に足りないコンピテンシーを、社内でじっくり育てたり、外部から採用したりといった計画的な人材育成もできるようになります。

 

コンピテンシーモデルの作り方

コンピテンシーモデルは、下記の手順に従って作ります。

  1. 採用方針とターゲットの確認
  2. ハイパフォーマー社員の分析
  3. 採用ターゲットごとの評価項目の設定
  4. 各モデルの評価項目のレベル分け
  5. 評価項目とレベルを明記した評価シートの作成

詳しい内容は次の通りです。

1.採用方針とターゲットの確認

コンピテンシーモデルを作る前に、まずは採用方針とターゲットを改めて確認し、何のために採用する人材なのかを明確化しましょう。

どの組織・職場にどのような人材を何のために採用するかという方針を固めないと、モデル作りに必要なハイパフォーマーを選出することができません。また、採用方針やターゲットがしっかり社員間で共有できていないと、その後の選考や合否判定での判断にバラツキが生じる可能性もあります。

まずは採用方針とターゲットを言語化し明確化しておくことが大切です。

2.ハイパフォーマー社員の分析

採用方針やターゲットに合わせて、ハイパフォーマー社員を選出し行動分析をします。

ハイパフォーマーを選ぶ際は、売上達成率や受注率などパフォーマンスを測る客観的な事実に基づいて選出するようにしましょう。ハイパフォーマーを選出したらヒアリングをして、行動や考え方の特性を分析します。ハイパフォーマーから客観的な事実をできるだけ多く聞き出すと、共通項を見つけやすくなります。また、特性分析に適性テストや性格診断などを活用することもおすすめです。

なお、理想型コンピテンシーモデルを作成する場合には、この工程は省かれます。ハイパフォーマーに該当する社員がいない場合などは理想型でもよいですが、より現実的なモデルにするためには、実在型と組み合わせたハイブリッド型にすることがおすすめです。

3.採用ターゲットごとの評価項目の設定

次に、採用ターゲットごとの評価項目を設定します。

一般的に採用ターゲットの職種や役職などによって、評価項目は異なります。採用ターゲットと同じ職種や役職のハイパフォーマーの特徴と照らし合わせて評価項目を設定していきましょう。

手順としては、評価項目を具体的に設定する前に、まず、ハイパフォーマーのコンピテンシーから自社の求める人材のペルソナを作成します。ペルソナとはターゲットとなる架空の人物像のことです。

ペルソナを明確にしたら、それをもとに、具体的な評価項目と基準点を決めていきます。

4.各モデルの評価項目のレベル分け

各コンピテンシーに基づく評価項目について、3~5段階にレベル分けすると評価がしやすくなります。このため、それぞれの評価項目についてレベル分けをしていきましょう。

コンピテンシーモデルでは、下記の5段階のレベル分けがよく利用されています。

Level1「受動行動」:指示を待ち、言われたことを言われたときにやる
Level2「通常行動」:ミスなくやり遂げる意識はあり、やるべきことをやるべきときにやる
Level3「能動行動」:自ら目的や意図を持ち、能動的に動ける
Level4「創造行動」:状況を変化・打破するため独自の工夫を加えて行動する
Level5「パラダイム転換行動」:独自性の高い新たな発想で、周囲にとって意味ある状況を作り出す

上記基準でレベル分けをしてみましょう。実際の評価の際に公正な判断ができるように、コンピテンシーごとに、レベル分けの基準を明文化しておくことがおすすめです。

5.評価項目とレベルを明記した評価シートの作成

コンピテンシーに基づく評価項目と評価レベルが整ったところで、評価シートを作成していきましょう。

一般的な評価シートでは、評価項目を「業績」「能力」「情意」の3つに分けます。

  • 業績考課:期間内に達成した成果についての評価項目(目標達成率、受注率など)
  • 能力考課:職務遂行能力についての評価項目(思考力、プレゼン力、専門技術など)
  • 情意考課:仕事の意欲や勤務態度についての評価(積極性、協調性など)

各コンピテンシーの評価項目を上記3分類に分けて、評価シートに反映し完成させましょう。

 

コンピテンシーモデルの作成例

コンピテンシーモデルの作成例について紹介します。下記は財務部門で作成されたコンピテンシーモデルの評価項目の例です。

【財務部門のコンピテンシーモデル(評価項目と定義)の例】

「リレーションシップを築く」
 問題解決と変革の実行において、他者と情報を共有し、また他者を巻き込んで複数の目標を達成する
「イニシアティブをとる」
 積極的に変革を提案し、効率性改善のために行動を起こす。既存、また、潜在的な問題に取り組み、顧客満足を獲得し、新しいチャンスを見出す。
「効果的なコミュニケーションを行う」
 情報とアイデアの両方について口頭と文章で伝える。他者の話を適切に聞き応答する。
「プライオリティーのバランスをとる」
 複数のプライオリティを処理するという観点から効果的に仕事量を管理する。

※出典:アントワネット・D・ルシア/リチャード・レプシンガー「実践コンピテンシーモデル」(P210)

 

コンピテンシーモデル活用時の注意点

コンピテンシーモデルを活用する際には下記の点に注意するようにしましょう。

  • 人材に期待する役割によって必要な能力は変わる
  • ハイパフォーマーと同じ行動を取っても成果がでる保証はない
  • ハイパフォーマーへのインタビュー含め分析に時間がかかる
  • 経営状況に応じてアップデートが必要

詳しくは次の通りです。

人材に期待する役割によって必要な能力は変わる

人材に期待される役割によって必要な能力は変わるため、コンピテンシーも役割や業務内容に応じて検討される必要があるといえるでしょう。

例えば、多くの職種では、ストレス耐性は高い方がいいとされていますが、QAエンジニア(品質保証エンジニア)の場合は、ストレス耐性は低い方がいいとされています。仕事柄、ストレス耐性が低い方が、よりユーザーフレンドリーな視点でテストを行うことができ、良い結果を出すといわれています。

役割や職種などによって必要な能力、コンピテンシーが異なる点に注意しましょう。

ハイパフォーマーと同じ行動を取っても成果がでる保証はない

ハイパフォーマーと同じ行動を取ったからといって成果が出る保証はありません。ハイパフォーマーは、実際にはそのときどきの環境に合わせた最適な行動をとることによって成果を上げています。

環境やタイミングが異なるため、行動をそのまま真似ても、成果につながるとは限りません。成果が出たときの行動をモデル化しても、状況が変われば通用しない点に注意しましょう。

ハイパフォーマーの行動分析では行動そのものに着目するのでなく、どのような状況でなぜそうしたのかという環境や考え方もあわせて検討する必要があるといえるでしょう。

ハイパフォーマーへのインタビュー含め分析に時間がかかる

コンピテンシーモデルを導入するといっても、ハイパフォーマーへのインタビューを含め分析から評価項目の構築、妥当性の検証、実践まで、非常に手間と時間がかかります。

会社によって、求める要件も異なるため、他で作られたコンピテンシーモデルをそのまま流用することもできません。自社用に作り込み、検証する必要があるため、会社の規模や導入するモデル数にもよりますが、開発から導入に数年かかるケースもあります。

コンピテンシーの導入には時間がかかる点に注意しましょう。

経営状況に応じてアップデートが必要

コンピテンシーモデルは一度作ればそれで完成というわけではありません。環境が変化したり、会社の方針が変わったりすると、求められる要件も変わるため、コンピテンシーモデルも見直す必要があります。

コンピテンシーモデルは、絶えずアップデートが必要で、運用コストも相応に発生する点に注意しましょう。

 

コンピテンシーモデルの企業導入事例

1990年代から多くの日本企業でも人事評価を目的としてコンピテンシーモデルを導入してきました。以下は、コンピテンシーモデルの企業導入事例です。

  • 富士フイルムビジネスイノベーション(旧:富士ゼロックス)
    1999年から管理職以上の人事評価にコンピテンシー評価を導入。役割に就く条件が明確になり「適材適所」の人材配置が可能に。
  • ソニー
    1995年から新卒採用にコンピテンシー評価を導入。
  • アサヒビール
    1999年から人材育成・任用のためコンピテンシーモデルを導入。2023年現在も新卒採用向けにコンピテンシーを設定。
  • 東京電力
    2002年から管理職にコンピテンシー評価を導入。2023年現在も管理職に「メンバー指導力」「戦略説明・浸透力」などの5つの行動を求め評価対象に。
  • ユニ・チャーム
    2000年から役員候補者の育成のためにコンピテンシーを導入。
  • 虎の門病院
    2005年から看護管理職にコンピテンシーモデルを開発・導入。看護管理者の質が向上。

さまざまな企業でコンピテンシーが導入されています。

 

コンピテンシーモデルを人材採用・育成・評価に活用しよう

コンピテンシーモデルは、人材採用・育成・評価に広く活用することができます。現実的で社員にも納得感を持って受け入れられやすい評価モデルでもあるため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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